街中にあふれる「公害コピー」をなくす方法:こだわりバカ(4/5 ページ)
過剰で無駄な言葉のせいで、本当に伝えなければいけない重要な情報が伝わらなくなっている「公害コピー」が街中にあふれている。このような公害コピーをなくすためには、どうすればいいのか。コピーライターの川上徹也氏によると……。
この動画はアップされると同時に大きな話題になった。キャンペーン期間内にYouTubeでの再生回数は5000万回を超え、Facebookでのシェアは300万回以上を数えたくらいだ。キャンペーンソングはヒットチャートでランキング入りし、パロディソングも何百も生まれた。
シェアしやすい環境を整えたことも、口コミが広がっていった大きな要因になった。Webサイトで曲がダウンロードできたり、スマホでのゲームアプリがあったりすることはもちろん、この歌や動画のコピーやパロディなどもすべて許容したのだ。また,駅構内での動画キャラを使った広告や、絵本やラジオ局への無料配信など、ネット以外のメディアにも広げていくことで幅広い年代へ訴求した。
その結果、メトロ・トレインズの電車事故はなんと21%も減少した。気をつけてほしいことが、きちんと伝わり、受け手がその通り行動しようと思ったのだ。さらに、オマケではあるが、2013年7月に開催された世界最大級の広告祭カンヌライオンズでは「ダイレクト」「PR」「ラジオ」「フィルム」「インテグレーテッド」5部門でのグランプリを含め28もの部門で賞を取り、史上最高に成功したWeb動画キャンペーンと呼ばれるまでになったのだ。
どうしてこのキャンペーンはここまでの成功を収めたのだろう? 鉄道会社の啓発キャンペーンというえば、冒頭に書いたように「〇〇禁止」「××はダメ」的なストレートな訴求になりがちだ。しかしそんなアプローチでは、ほとんどの乗客は、「そんなの分かってるよ」と心を閉ざして、聞く耳をもってくれない。メトロ・トレインズのキャンペーンでは、「おバカな死に方」という笑えるエンターテインメントにしたことが効いた。人は、上から目線で「××するな」と言われるよりも、ユーモアを込めて優しく脅されたほうが、聞き耳をもつ。
特に、自分の「死」には実感が分からなくても、人から「おバカ」と言われることには敏感な若者には心に刺ったのだ。
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