欧州の小国・ルクセンブルクが宇宙関係者から熱視線を集める理由:宇宙ビジネスの新潮流(2/3 ページ)
ドイツやフランスに挟まれた小さな国、ルクセンブルクが今、世界の宇宙ビジネスの中で注目を集めている。そのわけとは?
世界第2位の衛星通信企業もある
ルクセンブルクの宇宙産業の歴史は1985年から始まる。PPP(官民パートナーシップ)で衛星通信企業のSESを設立。同社は2000年前後からアジアやラテンアメリカなど欧州以外にも事業展開を行い、現在、静止衛星軌道上に約50機の衛星を運用している。2015年の売上高は20億1450万ユーロと、売り上げ規模では衛星通信事業では世界最大級を誇る。
ルクセンブルク政府自体も2005年にESAに加盟し、EU版GPSとも言われるガリレオプロジェクトにも参加を表明している。GDPに占める宇宙産業投資は0.03%となっており、これはESA加盟国の中ではトップ5に入る比率で、産業規模全体は23億ユーロに上る。国の規模を考えると非常に大きな数値だ。
ルクセンブルクの宇宙産業の特徴は、衛星による社会インフラ構築とその利活用サービスの促進である。現在では、25の関連企業、2つの研究施設に700人ほどがかかわっており、衛星通信、超小型衛星、地球観測、航空・海洋監視などの分野に注力して産業育成に取り組んでいる。
宇宙資源活用の欧州のハブになる
そうした中、今年2月3日にビッグなニュースが飛び出した。同国のエティエンヌ・シュナイダー副首相兼経済相が、ルクセンブルク政府として経済振興と宇宙探査拡大のために、同国を「宇宙探索および宇宙資源活用のヨーロッパにおけるハブ」とすることを目指し、地球近傍物体(NEO)の、鉱物資源開発を行う企業を支援すると発表したのである。
具体的には、「SpaceResources.lu」というイニシアチブの下、小惑星などの地球近傍天体における採掘権や採掘物に関する法整備を行い、研究開発への資金投資や先進企業への資金提供を実施する予定だ。民間企業による採掘権や採掘物に関する法整備については、以前この連載で紹介したように、2015年11月に米国でオバマ大統領がサインしている。今回ルクセンブルクで法整備がなされれば、世界で2番目の例となる。
こうした動きに対して1967年に発効した宇宙条約との相反を懸念する声も上がっているが、ルクセンブルク政府も国際法を十分考慮し、他国とも連携する方針を表明している。例えば、「International Institute of Space Law(IISL)」など法整備に前向きな見解も多い。同イニシアチブでは前ESA長官のジャン・ジャック・ドーダン氏がアドバイザーを務めており、欧州以外に米国、さらには中国からもメンバーが参画する予定とのことだ。
早くも複数の米国企業がSpaceResources.luとの連携を検討している。小惑星資源探査を目指す米Deep Space Industriesは既にルクセンブルクに子会社を設立しており、またイーロン・マスク氏率いる米SpaceXや米Planetary Resourcesも協議を行っていると言われている。
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