クレームから生まれたある女性ファンとの絆:「よなよなエール」流 ガチンコ経営(2/5 ページ)
地ビールブームが去り、売り上げが激減したヤッホーブルーイングにとって、再び事業を立て直すきっかけとなったのがネットの通信販売でした。今回は、販促のためのメルマガを巡り、顧客との間に起きた“大事件”を紹介します。
メルマガに賛否両論
私は思わず「これだ!」とひざを打ちました。このタッチを参考にして、自分らしいメルマガをさっそく作ることにしたのです。
「皆さん、こんにちは! 昨日性格診断をやってみたんです。そしたら、なるほどと思う内容ばっかりだったんですが、『同じタイプの芸能人はこの人!』と書いてあったのが何と“サザエさん”。そもそもサザエさんは芸能人なんですか?(笑)」
こんな感じで配信してみました。すると、「今回のメルマガ面白い」「私は芸能人の○○と同じと診断されて落ち込みましたよ」など、今まで全くなかった反応が返ってきました。そして「よなよなエール」のことなんて少ししか触れていないのに、「このメルマガを読んでいたら久し振りによなよなエールが飲みたくなったので注文します!」というお客さんまで現れ、いつもより注文数が増えたのです。
しかも、メルマガ配信を中止する人も以前の半分以下に減っています。嬉しかった。ネット通販はお客さんと直接顔を合わせられないからこそ、自分らしさをメルマガで表現することが大事なのだと気付きました。この調子でメルマガを出すたびに好評を得ていきました。そんな風にはしゃいでいたときに送られてきた一通のメールが冒頭のクレームです。
今までのメルマガには良いも悪いも反応は全くなかったのですが、新しいタッチのメルマガは、喜んでくれるファンが確実に増えました。それと同時に、クレームを言ってくるファンもちらほら出てきたのです。個性を出そうとすると賛否両論が生まれるのは当たり前なのですが、当時の私はかなり戸惑っていました。
クレームを送ってくるファンは、怒っているので正直怖いです。ストレスもすごいです。ですが、メルマガが嫌であれば、メルマガ配信の中止設定をすればいいだけです。それにもかかわらず、メールで私に伝えてきたということは、それだけよなよなエールが好きだということではないだろうか、だからわざわざ注意してくれるのだ。そんなファンの気持ちを思うと、本当に申し訳なく、心が痛みました。でも、せっかくメルマガの反応が良くなっているのでそれを止めるわけにはいきません。
私はクレームをくれたファンの方々一人一人に誠意を込めてメールを送りました。なぜ、こういうメルマガを書こうと思ったのか、経緯を一部始終お伝えしました。販売数を伸ばすために藁をも掴む思いでこのタッチを試してみたら好意的な反響が多かったこと、このタッチが嫌いなお客さんがいるのは理解しているが、もう少しやらせてほしい、ご理解いただきたい、このようなことを書いて送ったのです。
すると、ほとんどのファンからは「そうか、そういう思いがあるとは知らなかった。井手さんも大変なんだな。分かった。このメルマガは嫌いだがそこまで真剣なら応援するよ」という返事をいただきました。何と寛大なのでしょうか。お客さんを怒らせてしまうメルマガを送ったのに、事情を説明したら応援してくれるなんて。こんなありがたいことはないです。
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