酒井若菜さんが“物書き”として伝えたいこと:対談集をほぼ一人で作る(1/4 ページ)
女優の酒井若菜さんが文筆家としての一面も持っていることをご存じだろうか。これまでに小説やエッセイを出版し、先月には初の対談集「酒井若菜と8人の男たち」を上梓した。酒井さんが文章を書くことで伝えたい思いとは何だろうか――。
だれにだってあるんだよ
ひとにはいえないくるしみが
だれにだってあるんだよ
ひとにはいえないかなしみが
ただ だまっているだけなんだよ
いえばぐちになるから
これは詩人、故・相田みつをさんの一作品である。相田さんは栃木県足利市に生まれ、詩や書の創作活動に生涯をささげた。「人間」や「生きること」をテーマにした作品が多く、今なお経営者やビジネスマン、主婦など幅広い層に勇気や感動を与えている。数年前、民主党の野田佳彦元首相が「どじょうがさ〜」という相田さんの作品の一節を引用したことも話題になった。
そんな相田さんの詩に幼少期からずっと触れて育ったのが、女優の酒井若菜さんだ。相田さんと同郷の栃木出身で、酒井さん曰く、地元は「学校や公共施設などに行くと、相田さんの詩が必ずといっていいほど飾ってある」ような場所だったという。
酒井さんは1996年に芸能界デビューし、2000年過ぎから女優としての活動を本格化させた。彼女と同世代の筆者にとってはテレビドラマ「池袋ウエストゲートパーク」や「木更津キャッツアイ」の印象が強く残っているが、近年はNHKの大河ドラマ「龍馬伝」「軍師官兵衛」や、朝ドラ「マッサン」などでも名演技が光った。
夜に読むものを書く
実は、酒井さんには文筆家としての一面があるのをご存じだろうか。10代のころからブログを書き続ける傍ら、小説やエッセイなどを出版している。「所詮、タレントが書いたものでしょ」と軽んじることなかれ。少しでも読んでみれば、巷にあふれるそうしたものとは一線を画していることがよく分かるはずだ。彼女の文章には生き様や人間性が強烈に現れている。そしてその文章の多くが、長くて深く、ある意味、重い。「無意識だけど、自分の根っこには相田さんの詩のような世界観があるのかもしれません」と酒井さんは話す。
なぜ酒井さんは文章を書くのだろうか。
「子どものときから作文や詩を書くのが好きで、大人たちに褒められるのが文章でした。女優になって何か大きなきっかけがあって書き始めたということではなく、小さいころから文章を書くというのが生活の一部になっていて、それが今では仕事の1つにもなったわけです」(酒井さん)
文章を書く上で酒井さんが常に意識しているのが、「夜に読むもの」という点だ。「人間誰しも、夜中になると突然、空虚な気持ちになったり、不安になったり、孤独になったりしがちです。そんな時間帯に私の文章を読んでもらいたい」と酒井さんは説明する。
こうした考えに至った経緯はブログにあるという。元々のブログの読者があまりにも悩みを抱えていたり、病んでいたりする人が多く、彼らに向けて何かを書いて伝えていこうというのがあった。最近はそこまでこだわらず、もう少し自然体で書こうとしているが、変わらず心掛けているのが、現在進行形の悩みを書かないことと、できる限り悪人を作らず、他人を傷つけないようにしていることだ。
一方で、自分にとって都合の悪いことや弱みも書くように意識している。多くの人は弱みをさらすことに抵抗があるだろう。しかし、あえてそれをさらけ出すことで、「私も同じことに悩んでいるので、励まされた」など、読者の共感を得られることも多い。
そして、ときには本音もしっかりと言う。
「例えば、『震災のことを忘れないでください』と皆言うけれど、忘れてはいけないという言葉が出るのは、『それは忘れているからではないのか?』と私はうがった目で見てしまいます。でも、私は震災のことを忘れてないから、逆に忘れる努力をしないといけないと思っています。それは正論ではないかもしれないけど、分かると言ってくれたり、忘れないと生きていけないよねと吐露してくれたりする人たちもいるのです。そういう隙間を埋めるような声を書くようにしています」(酒井さん)
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