災害取材を行うマスコミが、現地で非常識な行動をとる理由:スピン経済の歩き方(3/5 ページ)
関西テレビ放送の中継車が、被災地のガソリンスタンドで給油待ちをしていた車列に割り込んだことが発覚した。過去にも被災地でマスコミの非常識な行動が問題になっているが、なぜ彼らは“迷惑”なことをしてしまうのか。筆者の窪田氏によると……。
「被害」こそが伝える価値がある
実際、噴火から10日足らずで、被災したスナックのママが安全な地域に臨時店舗をオープンした。被災者にも好評で、避難所の体育館から夜な夜なやって来て、カラオケで歌ったり、酒を楽しんでいた。
こういう被災地の「現実」をなんとか伝えたいと考えたが、記者をしていた雑誌ではボツ。現地のマスコミはみな知っていたので、どこかが報じるだろうと思っていたが、全国紙の地方版が小さく取り上げただけ。全国から集結したマスコミは、「疲労重なる避難生活」という見出しとともに、「体育館で寝泊まりし、疲れた表情の被災者」の写真や映像を毎日取り上げ続けた。つまり、「災害報道」というのは、とにもかくにも「弱者」に寄り添い、常に「被害」にフォーカスをあてなくてはいけないという暗黙のルールがあるのだ。困難の中で明るく過ごす被災者や復興へ向けた動きは、ニュースバリューが低いとみなされてしまう。
今回もそれは変わらない。分かりやすいのが『読売新聞』だ。4月17日の一面には、《暴れる大地に涙》《学生犠牲 友人ら無念》《妻「どうしてあの人が」》《優しい人だったのに》という見出しが踊り、男子学生や亡くなった方たちの顔写真とともに倒壊したアパートが映る。
翌18日の一面も同様のトーンが続く。大見出しには《熊本地震 避難11万人》。《死者新たに1人 42人に》《南阿蘇7人に安否不明》という言葉とともに、土砂崩れ現場で必死の救援作業を行う自衛隊の様子を、西部本社が出したヘリが空撮した写真が大きく掲載されている。
新聞の一面というものは、その新聞社が最も報じるべきと考えるものが掲載される。つまり、『読売新聞』が今回の熊本地震で、「最も伝えるべき価値のあるニュース」と考えたのは「被害」になっているということだ。
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