災害取材を行うマスコミが、現地で非常識な行動をとる理由:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
関西テレビ放送の中継車が、被災地のガソリンスタンドで給油待ちをしていた車列に割り込んだことが発覚した。過去にも被災地でマスコミの非常識な行動が問題になっているが、なぜ彼らは“迷惑”なことをしてしまうのか。筆者の窪田氏によると……。
「伝えるべき価値」が値崩れ
ただ、個人的には新聞が一面をつかって報じることは、もっと他にあるのではないかという気もしている。
例えば「支援」だ。先ほど引用した田村さんのSNSでは、福岡市が公開している熊本への救援物資の送り方などを取り上げ、「拡散」している。熊本出身のタレントのスザンヌさんも自身が被災している中で、ブログを被災者や支援者の情報交換の場に明け渡している。もしこれを『読売』の一面でやったら――。見出しをつけた人には悪いが、「暴れる大地に涙」よりよほど被災者のためになるメッセージではないか。
さらに言えば、こういう「被害」を伝えることにこそ「価値」があるという報道スタンスは後々深刻な事態を招く。自然災害は徐々に「被害」は回復される。もちろん、悲しみは癒えないし、傷跡も残る。しかし、マスコミが飛びつく「分かりやすく派手な被害」は徐々に消えていく。
それは言い換えれば、マスコミにとっての「伝えるべき価値」が下落するということだ。「被害」こそが新聞の一面を飾るような価値があるという考えなのだから、「被害の回復」はそれよりも価値が下がってしまうのは当然だろう。東日本大震災のとき、あれほど被災地に押しかけたマスコミが、「復興」という兆しが見えた途端、パタリとやって来なくなったのはこれが理由である。
このような「被害押し」の報道姿勢は、今話題となっている「行き過ぎた自粛ムード」とも決して無関係ではない。
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