漫画が売れたら終わりではない 敏腕編集者・佐渡島氏が描く『宇宙兄弟』の次:「全力疾走」という病(2/5 ページ)
講談社時代、漫画『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』など数々のヒットを飛ばした編集者、佐渡島庸平氏。大手出版社勤務というキャリアを捨てて彼が選んだのは、作家エージェントとしての起業だった。彼を駆り立てるものは一体何だったのだろうか――。
400もの美容室に漫画を配る
漫画がヒットしないのはなぜか、佐渡島は2つの可能性を考えた。1つは、自分の感覚が間違っているのではないかということ。もう1つは、届けるべき人に作品が届いていないのではないかということ。前者であれば自分の感覚を変えなければならない。後者であれば世間の反応を変えなければならない。佐渡島が選択したのは――。
「社会経験が浅いと、自分が間違っているんじゃないかという感覚に陥ります。でも自分を疑い始めると終わりがなく、一生疑い続けることになります。自分を疑うことで、考えがどんどんブレてしまう。自分の考えがグラグラしたままでは何もできません。しばらくして気付いたのは、自分の感覚は天からの授かりものだから動かしようがない、ということでした。このときから、自分が対応できないことにはかかわらないようにして、自分の力で動かせるものだけを変えていこうとしました」
世間の反応なら変えられるのではないか。そう考えた佐渡島はさまざまな仮説を立てて、それを検証した。
その1つが、美容室への漫画の無料配布だ。女性読者が増えれば『宇宙兄弟』の認知の流れが変わると考えた佐渡島は、首都圏の美容室400店に『宇宙兄弟』の1、2巻を送付した。すると3巻を出したあたりから明らかに読者の反応が変わったという。「美容室で勧めてもらって読んでみた」というアンケートハガキが編集部に届くようになったのだ。「作品そのものがどんどんおもしろくなったから、やらなくてもヒットしたかもしれない」とはいうものの、前例のない宣伝手法によって確かな手応えを感じたことで、仕事そのものが楽しくなっていった。
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