大規模災害を教訓に、貨物鉄道網の再整備を:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
赤字であっても鉄道が必要という自治体は多い。なぜなら道路だけでは緊急輸送に対応できないからだ。鉄道と道路で輸送路を二重化し、片方が不通になっても移動手段を確保したい。しかし全国の鉄道貨物輸送は短縮されたままになっている。
知ってほしい九州新幹線の医療輸送
九州新幹線の鹿児島中央〜新水俣間の運行再開も朗報だ。九州新幹線全体の中では短い区間だけど、九州新幹線には旅客輸送以外の役割がある。医療輸送だ。九州新幹線は鹿児島ルートの全線開業時から重病患者の輸送に対応している。五つ子で全国に知られた鹿児島市民病院で、産科の医師が新幹線による患者の搬送を提案し、熊本医師会の要請でJR九州と医療機関が提携した。
新幹線の患者輸送が提案された理由は、主に周産期の母子の治療である。特別な設備のある熊本や福岡の病院へ輸送するためだった。気管支の重篤患者のため、JR西日本やJR東海と連携し、九州から東京まで新幹線で輸送した事例もある。呼吸器系の病気は気圧の変化があって空路では耐えられず、航空機内は電源も不安定で医療機器を使えない。そこで新幹線が最適というわけだ。
熊本市内で脱線した新幹線車両はJR九州の800系電車だ。この電車は博多延伸開業の時に増備され、内外装がマイナーチェンジされた。そのとき、今まで800系電車にはなかった多目的室が設置された。まさにそれは患者輸送のためで、医療機器のためのコンセントも用意している。さらにJR九州は、八代〜鹿児島中央間の一部区間開業時に製造した初代800系も、1000万円を投じて改造、多目的室を設置した。
九州新幹線の鹿児島中央〜新水俣間の再開によって、鹿児島の医療チームが被災地へ通えるようになった。透析や喘息(ぜんそく)など重病患者も、新水俣までたどり着けば鹿児島の病院に移送できる。だから九州新幹線の全線再開は急務だ。それは人命救助にもつながっている。
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