大規模災害を教訓に、貨物鉄道網の再整備を:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
赤字であっても鉄道が必要という自治体は多い。なぜなら道路だけでは緊急輸送に対応できないからだ。鉄道と道路で輸送路を二重化し、片方が不通になっても移動手段を確保したい。しかし全国の鉄道貨物輸送は短縮されたままになっている。
有事のために貨物鉄道網の再整備が必要
九州の幹線鉄道網は2系統ある。1つは鹿児島本線と九州新幹線鹿児島ルート。佐賀県、熊本県経由の西回りだ。もう1つは日豊本線ルート。大分県、宮崎県経由の東回りだ。2つのルートはつながっている。北は北九州の小倉。南は鹿児島である。
西回りのうち、熊本県の八代と鹿児島県の川内の間は並行在来線の肥薩おれんじ鉄道になった。しかし、貨物列車は直通運転している。1日に5往復の貨物列車があり、東京からの直通列車も1往復が設定されている。被災路線の復旧が進めば、被災地の近くまで支援物資や復興用建材を輸送できる。
しかし、問題は東回りだ。線路はつながっているけれど、貨物輸送は南延岡駅までとなっている。鉄道貨物協会が頒布している「JR貨物時刻表」によると、JR貨物の営業区間はさらに67.1キロメートル南の佐土原駅までとなっている。しかし、佐土原は鉄道の駅ではない。オフレールステーション(ORS)である。妙なカタカナが出てきたけれど、要するにトラックターミナルだ。列車は来ない。
つまり、JR貨物は日豊本線の小倉から佐土原まで貨物輸送を実施しているけれど、貨物列車は南延岡まで。そこから佐土原まではトラック輸送だ。都城にもオフレールステーションがあり、鹿児島貨物ターミナルとトラック便で結んでいる。旅客鉄道の代行バスのようなもので「輸送量が少なく列車ではコストがかかりすぎるから、代行トラック輸送にしましょう」となっている。南延岡から鹿児島までの貨物列車はない。
もし、日豊本線の貨物列車を全区間運行できたら、支援物資を東回り経由で輸送し、鹿児島から西回りに入って八代まで輸送できた。熊本市や阿蘇など被災地からは遠いけれど、福岡よりはずっと近い。線路があっても貨物列車が走れない。なぜなら、JR貨物の営業許可は佐土原までとなっているから。かつて貨物列車を走らせた区間で運行を再開するには手続きが必要だ。
手続き以外にも確認事項がある。機関車の重量は大きいから、試運転を実施して線路の耐久性を確認する時間がかかるし、必要ならば再整備も必要だ。レールは路線の用途ごとに規格が異なる。低速な旅客列車だけの路線なら低コストな細いレールで十分だ。特急が走る路線はもっと太い(重い)レールを使う。ヘビー級の貨物列車を走らせるなら太いレールに交換しなくてはいけない。
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