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大規模災害を教訓に、貨物鉄道網の再整備を:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
赤字であっても鉄道が必要という自治体は多い。なぜなら道路だけでは緊急輸送に対応できないからだ。鉄道と道路で輸送路を二重化し、片方が不通になっても移動手段を確保したい。しかし全国の鉄道貨物輸送は短縮されたままになっている。
いまやJR貨物は日本全国の幹線鉄道で貨物列車を走らせているわけではない。貨物列車のネットワークは、末端では「オフレール」化されている。九州では長崎本線の終点長崎駅と佐世保線の有田駅がオフレールステーション。四国は高知と徳島。そのほか、東松江、和歌山、八王子、山形、小樽築港、名寄、中斜里など、全国に約30地点がオフレールである。すぐそばに線路があっても代行トラック輸送になるのだ。
輸送量が少ないからトラック輸送に切り替える。それは営業施策上は正しい。しかし、だからといって、線路を放棄してもいいのだろうか。今回の地震で全国の活断層が見直された。地震や台風、土砂崩れなどいまやこの国はどこで自然災害が起きてもおかしくない。もはや自衛隊からも当てにされていないかもしれないけれど、有事を考えても、道路、空路、海路、鉄道、あらゆるルートを担保する必要がある。
鉄道においては、普段は使わなくても、いざというときには貨物列車で大量に輸送できる状態が望ましい。年に一度の避難訓練のように、少なくとも年に1回、できれば季節の変化に合わせて2〜4回、定期的に全国の幹線鉄道で貨物輸送訓練を実施すべきだ。それは新幹線も例外ではない。大地震を教訓として、新幹線の救援物資輸送、さらには貨物列車運行も検討すべきであろう。輸送は営利事業だけではない。国策なのだ。
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