新型パッソ/ブーンで見えたダイハツの実力:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
ダイハツの新型パッソ/ブーンに試乗して実感したのは、同社の高い見識と技術力だ。そしてもう1つは、ダイハツを完全子会社化したトヨタの戦略眼の確かさである。
先進国と新興国のクルマは何が違う?
フルモデルチェンジと言いつつ、新型パッソ/ブーンは、実のところ完全なブランニューではない。問題の過大なペダルのオフセットについて、筆者は「これは左ハンドルを優先して設計した結果なのか?」と確認したが、そうではなかった。設計は右で行っている。原因は旧型のバルクヘッド設計をキャリーオーバーして作られているためだ。残念なペダルオフセットはその残滓(ざんし)である。新設計できなかったところに大きな制約が残されていたのだ。しかし、それ以外の部分の設計ではダイハツはその実力と見識を遺憾なく発揮している。これからそれを1つずつ挙げていきたい。
まずは、基本になるパッケージだ。国内マーケットを見たとき、パッソ/ブーンは難しいクルマだ。上にはヴィッツがあり、下には過当競争の中で鍛え上げられた軽自動車がある。挟み撃ちにあった隙間にニッチでありながら明確な立ち位置を見つけなくてはならない。
しかも、アジア戦略車としての資質を考えれば、それは先進国向けのヴィッツとは違ってくる。ヴィッツは、豊かな先進国のユーザーがパーソナルカーとして小さな外寸を優先して選択するクルマだ。4人乗車が前提ならもっと大きなクルマを買う。その目的を考えれば設計は前席中心になる。当然後席空間は広さよりもデザイン性の向上に振り向けられる。国内生産なら、設備の制約も少ないので、最新のプレス技術を必要とするエクステリアデザインも許容される。ファッション性が重要な商品力要素なのだ。
しかし、アジア戦略車はそうではない。なけなしのお金をつぎ込んで買うクルマに家族全員が乗る。リヤシートのプライオリティが全く違うのだ。
ダイハツはルーフをできる限り後ろまで水平に引っ張った。側面透視写真を見ると良く分かるが、ルーフが下がり始めるポイントはリヤパッセンジャーの頭部より後ろだ。リヤシートの居住性向上に留意して、視界に入る範囲でルーフが垂れ下がってこない形状になっている。
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