決算発表と2人の巨人 鈴木修と豊田章男:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
自動車メーカー各社の決算が出そろった。いくつかの決算発表会に足を運び、経営トップの声を直接聞く中で、ある共通点が見えてきた。
未来へのビジョン
さて、では今期、2016年度の各社の業績予想がどうかと言えば、全体の流れは減収減益だ。為替がはっきりと円高に向かっており、試練の年を迎えるというのが概ね共通認識だ。
トヨタと言えども例外ではない。豊田社長の「意思の真贋(しんがん)が問われる年」という発言からも厳しい年になることが予想される。その中でホンダは5.8%の減収ながら19.2%の増益を予測する。これは上述の品質関連費用の収束によって、足かせがなくなることによるものだろう。タカタ問題の決着により制約がなくなったとき、果たしてどの程度の利益が出せるのかが問われる重要な局面になると思われる。
決算発表の中で、明らかに未来へのビジョンを語ったトップが2人いた。それは日本の自動車史に大きな足跡を残すことが確定したスズキの鈴木会長と、次世代の日本自動車産業を代表することになりそうなトヨタの豊田社長だ。
まずは鈴木会長の発言から書き出してみよう。スズキはここ数年の動きの中から反省すべき点として、軽自動車40%のシェアにこだわりすぎたことと、そのために燃費競争に特化しすぎたことを挙げている。「こんな競争を続けていると白物家電化してしまう」という言葉の先には、自動車メーカーとしての責任や自負が見える。
「軽の存在価値」を改めて見直すことが必要であり、そのためには、燃費だけでなく、品質や耐久性とセットになったコストまでを広く見渡し、農産地を中心とした地方を重視して真面目にクルマを作っていかなくてはならないと言うのだ。小さくて便利なクルマで地方を豊かにするという原点回帰だ。また軽以外のクルマにも力を入れる。国内では既に「イグニス」と「バレーノ」を投入し、欧州では「ビターラ」を、インドでは「ビターラ・ブレッツァ」を投入している。
国内では、地方で過疎化に苦しむ販売店対策にさらに力を入れていく方針だ。従来は地方販売店の後継者をスズキに入社させて5年間経験を積むという方針で育成を行ってきたが、それだけでは十分とは言えない。過疎化という地盤沈下は個別の販売店の対応でどうにかなるものではない。スズキは販売店とのコミュニケーションを深めつつ、共同経営化へ進みながら、販売拠点の配置換えを含む包括的な販売力の強化育成に力を入れていきたいと言う。
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