ワトソン君が変える医療の未来(3/3 ページ)
ワトソン君とは、IBMが開発を続ける最新鋭のコンピュータ。2009年に米国で開発がスタート。当初の目的はクイズ番組に出場して勝つことだったが、その後飛躍的な進化を遂げ、東大医学部と共同でがん解明に挑むようになっている。
医療情報の切り札となる「コクラン・ライブラリ」
コクラン共同計画と呼ばれる、治療と予防に関する医療情報を定期的に吟味して、人々に伝える動きがある。ここで行われているのがシステマチック・レビューである。
世の中には、ありあまるほどの治療法や健康法が流布されている。「これでがんが消えた」とか「これを飲むだけで歩けるようになった」といった話が、テレビなどで伝えられることもよくある。深く考えずに聞いていると「それは、すごい! じゃ、私も」となってしまうのだが、そこでちょっと待ったをかけるのがエビデンス、すなわち科学的根拠である。ある治療法や薬に画期的な効果があったいわれても、まずは「それって本当?」とうたがってみるべきだ。
医学的には、ランダム化比較試験を行っているかどうかが決定的に重要である。これはデータのバイアスを軽減するために、被験者をランダムに処置群(治験薬群)と比較対照群(治療薬群、プラセボ群など)に分けて治験をおこない、客観的に効果を評価することだ。要するに、ある症例に対する治療法や薬剤があったとして、同じ症例を抱えている患者に対して、その治療なり薬を実際に与えた患者グループと、同じ治療と薬を与えると言いながら何もしない患者グループで、どれだけ違いが出るかを比べる。これを厳密に行うために、治療を行う医師にも、本物の治療かどうかは明かさない(二重盲検と呼ぶ)。
システマチック・レビューは、世界中で発表される研究論文を対象に、テーマを絞って研究結果をもれなく集め、その研究の質を詳細にチェック、良質なデータをまとめて分析し、中立的な視点に立って得られた結果から結論を導く。これをまとめたデータベースが「コクラン・ライブラリー」である。
ワトソン君が忙しい医師の代わりに、コクラン・ライブラリーのデータベースなど信頼性の高い論文を数多く読み込み、患者の症例に応じて最適な治療法を見つけ出す。それに基いて医師が実際の治療を施す。難易度の高い手術であれば手術ロボットの「ダ・ヴィンチ君」にお任せする。近未来の医師の役割は、従来とは大きく変わっていく可能性がある。(竹林篤実)
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