列車の車内販売を終わらせてはいけない理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
鳥取県の若桜鉄道で2016年5月から車内販売が始まった。山陰地方で唯一の車内販売だという。全国的に車内販売は縮小傾向にある中で、地方のローカル線やJR東日本の首都圏のグリーン車で車内販売を実施している。車内販売の廃止と開始、その違いは付帯サービスか付加価値か、という考え方の違いでもある。
若桜鉄道の車内販売は「付加価値」
鳥取県の若桜鉄道が2016年5月から車内販売を始めた。毎月第2・第4日曜に実施するという。若桜鉄道は国鉄再建法で廃止対象となり、JR西日本に移行してから廃止となった若桜線を継承した第3セクター企業だ。路線の営業距離は19.2キロメートル。所要時間は約30分。その短い乗車時間で何を売るのか。
5月8日付の産経新聞電子版(関連リンク)によれば「特産の柿を使ったロールケーキ『柿込景気(かきこみけいき)』などの食品や特製トートバッグなど、車内限定商品を含む約20種類」とのことだ。販売は地元の八頭町観光協会が行う。
若桜鉄道の車内販売は飲食中心ではない。だから官営鉄道時代から続く「運輸業の付帯サービス」ではない。土産品の販売、つまり「観光需要」に的を絞っている。若桜鉄道の乗車体験に付加価値を与える手段として車内販売がある。
若桜鉄道は運営助成基金で赤字を補填(ほてん)していたものの、収支は改善せず、2008年に基金が枯渇。沿線自治体による鉄道事業再構築実施計画について国から認定された。日本初の公有民営化であった。2009年以降は3期にわたって黒字となった。しかし、2012年度から赤字に転落。収支は悪化し、赤字は倍々ゲームで膨らんで、2014年度は3153万円の赤字だった。
その経営立て直しのために、2014年度からIT業界出身の公募社長が就任し、自治体、商工会議所、観光協会と連携した活性化の取り組みを続けている。沿線の隼駅が同名のオートバイ愛好家の聖地とされており、その縁でイベントを実施したり、観光の目玉として2007年に譲受した蒸気機関車を社会実験として本線で走行させたり。最近では鳥取県の観光キャンペーンに参加して、その蒸気機関車をピンク色に塗って話題になった。
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