列車の車内販売を終わらせてはいけない理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
鳥取県の若桜鉄道で2016年5月から車内販売が始まった。山陰地方で唯一の車内販売だという。全国的に車内販売は縮小傾向にある中で、地方のローカル線やJR東日本の首都圏のグリーン車で車内販売を実施している。車内販売の廃止と開始、その違いは付帯サービスか付加価値か、という考え方の違いでもある。
車内販売の考え方は国鉄時代のまま
なぜ、JRグループは車内販売を軽視しているか。その理由は車内販売の位置付けを「運輸業の付帯サービス」と考えているからだ。
日本の列車内販売は1987(明治30)年、関西鉄道が列車内に設置した売店が起源だ。現在のワゴン販売に通じる巡回方式は戦時中の1944(昭和19)年、官営鉄道の長距離列車で食堂車を廃止してからだ。長距離列車で乗客が腹を空かせて体調を崩されては困る。そこで40銭の「五目弁当」と10銭の「鉄道パン」を販売した。
今では東京駅でいつでも買える「牛肉どまんなか」弁当。山形新幹線で注文すると、在庫がなくても次の駅で積み込んでくれた。右上に見える冊子「TrainShop」はJR東日本の車内で配布されている通信販売商品案内。広義で車内販売と言えるかもしれない
ここから国鉄時代を経て、車内販売は輸送サービスの付帯事業と捉えられてきた。付帯事業だから利益は問わない。とはいえ、赤字では困る。国鉄は民業圧迫を避けるため、運輸事業以外は厳しく制限されていた。飲料も食事も山小屋のような割増料金であり、殿さま商売、親方日の丸の批判のタネともなった。その考え方は分割民営化しても変わらなかった。JR会社法では、政府主導の巨大企業となるJR各社に、民業圧迫を避けるための枷(かせ)をはめた。
この考えだと、モノが売れず赤字となり、代替手段があるなら廃止しようとなる。「車内販売は廃止しますよ。でも、売店がコンビニ化して充実していますから」となる。「バスがあるからローカル線を廃止してもいい」という考え方と変わらない。こうして、JRの車内販売は次々と消えていった。
JR東海とJR西日本は、新幹線「ひかり」「のぞみ」以外の車内販売を廃止している。JR九州も新幹線「みずほ」「さくら」と観光列車以外は廃止。北海道も「オホーツク」「スーパー宗谷」「スーパーとかち」で全廃。「北斗」と「スーパーおおぞら」の夜間早朝便などで休止となった。
JR東日本は2015年3月に「なすの」「たにがわ」「つばさ(山形〜新庄間)」「成田エクスプレス」などで車内販売を終了した。つばさに乗って車内で名物駅弁「牛肉ど真ん中」を注文すると、在庫がなければ次の駅で積み込んでくれた。山形新幹線は過去に「カリスマ販売員」と呼ばれる人材を2人も輩出しており、ほかの販売員が1日に7〜8万円を売り上げるところ、1往復半で50万円以上を売り上げたという。それでも「ご利用状況を踏まえて」廃止である。
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