「札幌駅に北海道新幹線のホームを作れない」は本当か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
JR北海道が「北海道新幹線の札幌駅は在来線に隣接できない」と言い出した。既定路線の撤回であり、乗り換えの利便性も低下する。札幌市と建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が反発している。JR北海道の言い分「在来線の運行に支障がある」、これは本当だろうか。駅の線路配線図とダイヤから検証してみよう。
2本の線路で約900本の列車を発着できる理由
名鉄名古屋駅は、なぜ2本の線路で約900本の列車を発着できるか。その理由は単純明快だ。「折り返し」をしないからだ。複線区間で折り返しを設定すると、列車が複数の線路にまたがる時間ができる。その間、同じ地点を通過する列車は足止めを食らう。これを交差支障という。名鉄名古屋駅は交差支障を作らないように、2つの線路はどちらも一方通行だ。山手線の駅と同じである。ちなみに山手線の1日の運行本数は約650本だから、名鉄名古屋駅のほうが運行頻度は高い。
また、名鉄名古屋駅の列車運行本数が多い理由は、名鉄の方針として「名鉄名古屋直通主義」とも言うべき考え方があるからだ。名鉄の路線網は一部を除き、名古屋駅を中心として、次々に枝分かれしている。支線の列車も、さらに枝分かれした支線の列車も本線に直通して名鉄名古屋駅にやってくる。本線の豊橋方面、岐阜方面をはじめ、14方面の列車が名鉄名古屋駅に集中する。
名鉄にしても本音はホームを増やしたい。1941年の開業当時は線路が3本だった。その後、ホームの拡幅と合わせて線路1本を撤去し、現在の形になった。拡幅しようにもJR駅側の地下街や地下鉄に挟まれて身動きが取れない。増大する列車数に対応するためには、折り返しをやめて、すべての列車を同方向へ流すほかなかった。例えば、常滑線からやって来た列車は、そのまま走らせて犬山線の列車とする、というように。
空港特急など名鉄名古屋駅を始発、終着とする列車もある。その場合も、折り返さずに、到着した向きのまま、回送列車として流す。運行密度に余裕のある駅で折り返して戻ってくる。
これに対して、札幌駅はどうか。札幌駅始発終着の特急列車がたくさんある。しかも交差支障の影響範囲も大きい。白石方面から到着した函館本線の列車は、折り返すときに千歳線の線路もまたいでしまう。これは札沼線と千歳線の直通列車も同じだ。札沼線の列車が折り返さずに千歳線に入るなどの工夫はあるけれど、そのために函館本線の線路をふさいでいる。
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