「中古車で十分」の先に起こる日本の不幸化:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
「新車なんて買えない。中古車で十分だ」。これが今の日本の消費者のリアルな声だ。そこには日本経済の停滞が大いに関係するのは言うまでもない。
「中古車で十分」という言葉の向こうにはこういう問題が横たわっているのだ。マツダ・ロードスターなどはこの問題に直面していると言っても良い。初代NA型以来、最新のND型まで、クルマとしての本質的価値は変わらない。変わらないということは素晴らしいことだが、ユーザー側にしてみればどうしても新型を新車で買わなければならない理由は乏しい。ロードスターの最大の敵は旧型ロードスターなのだ。
価格も程度も幅広く、選り取り見取りだ。しかし、あまりにも多くの人がそういう合理的な判断をすると、25年続いたロードスターの歴史が途絶えてしまう。中古のロードスターを合理的に選択しておいて、いざ「NE型は出ませんでした」となったとき、「あんな名車の生産を止めてしまうなんておかしい」と叫んでも後の祭りである。
さてこの話、処方せんは何もない。こうすればそうならないという方法があるわけではないのだ。個人としての合理的選択を否定したら自由経済が立ちいかない。だからただ1つ、合理的選択をするときに合成の誤謬という視点を思い出してほしい。そういう考え方があるということを多くの人が知ったら、消費の仕方が変わるかもしれない。
なぜなら電車の乗り降りだって同じだからだ。誰か一人だけ脇に避けても、効率は改善せず、その人の乗り込む順番が遅くなるだけだったはずなのだ。しかし、日本人は多くの人のマナー向上という方法で、全体最適を実現して見せているのである。救いがあるとしたらそれは知恵だけなのだ。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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