小学校のプログラミング必修化は本当に必要か:新連載・意外と知らない教育現場のいま(1/3 ページ)
昨今はブームとも呼べる教育のICT化。ITツールを使えば、果たして学びは劇的に変わるものなのか。そして、小中でのプログラミング授業必修化は正解だったのだろうか――ジャーナリストの鈴木隆祐が読み解く。
意外と知らない教育現場のいま:
「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」(『去来抄』より引用)
この松尾芭蕉の言葉こそ、教育の真相を突いている。古い理(ことわり)にばかり縛られていると、社会も事業体も衰退してしまう。しかし、変えてはならない部分を変えてしまうと、今度は立ち所に瓦解を迎えてしまう。教育現場は経験の蓄積を大事にしつつも、つねに果敢な脱皮を繰り広げている。その実態を極力現場の声を拾いながら、伝えていきたい。
文部科学省は4月19日、小学校でのプログラミング教育の必修化を検討すると発表した。政府の産業競争力会議で示された新成長戦略の一つとして、2020年度からの新学習指導要領に盛り込む方向で議論している。
技術の進化が飛躍的に進む中、PCを制御する能力の育成が重要との判断から5月には有識者会議を開いたそうだ。ちなみに現在、公立小学校では課外活動としてGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)でPC画面上のキャラクターを動かすといった、プログラミングもどきの体験はあるが、授業で教科として教えていない。
こうした動きには英語必修化同様、当然「時期尚早」との異論も出ている。03年に必修科目とされた高校の「情報」も、なかなか教える人材を手配できないため、「街のPC教室以下」ともいわれる低レベルにあえぐ学校も多い。私が見聞した実際の授業でも、単にWordやExcelなどのソフトの使い方を教えるにとどまったり、SNSでのリテラシービデオを見せて学ばせるといった、ややお粗末な内容が多かった。事実上、受験向け科目に振り替えられるケースも見受ける。
PCに詳しい生徒なら既にそれらの標準ソフトを駆使もできるし、Webサイトやブログも自身で構築するぐらいできる。日進月歩の現実とのズレを埋めるには、まず教える側の鍛錬しかない気もする。
高校でのプログラミングだが、現在は選択科目の中に含まれるため、学んでいる生徒は全体の2割。しかし、20年度以降の新学習指導要領では必修科目の学習項目に入れる方針だ。ちなみに、既に中学では12年度より、中学校の「技術・家庭」において、従来選択科目であった「プログラムと計測・制御」が必修科目となっているが、意外と知られていない。そこにも新成長戦略ではアニメーション制作など新しい内容を追加したい考えのようだ。
安倍首相は産業競争力会議でも「日本には、ITやロボットに慣れ親しんだ若い世代がいます。第四次産業革命の大波は、若者に『社会を変え、世界で活躍する』チャンスを与えるものです」と前向きな発言をし、「日本の若者には、第四次産業革命の時代を生き抜き、主導していってほしい。このため、初等中等教育からプログラミング教育を必修化します。一人一人の習熟度に合わせて学習を支援できるようITを徹底活用します」と言い切っている。
「日本の成長を支える産業ウェブビジネス(野村総研)」によると、確かに20年には日本のWebビジネスの市場規模が10年時点と比べて4.5倍に拡大し、それによりWeb系企業の雇用者数も150万人増加することが見込まれている。
しかし、観光資源としての農水産業も見直され、自給自足ブームから就農誘致も盛んになっている昨今、あえて第一次産業に従事しようとする若者も出てきている。今なお全国には農業系で311校、水産系で42校の専門高校がある。何が言いたいかというと、英語教育と同じで、誰も彼もがプログラミングを学ぶ必要はないということだ。少子化が進む一方なのだから、もっと生徒目線の教育を考えねばならないはずだ。
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