小学校のプログラミング必修化は本当に必要か:新連載・意外と知らない教育現場のいま(2/3 ページ)
昨今はブームとも呼べる教育のICT化。ITツールを使えば、果たして学びは劇的に変わるものなのか。そして、小中でのプログラミング授業必修化は正解だったのだろうか――ジャーナリストの鈴木隆祐が読み解く。
ITツール導入が学力を向上させる?
表計算ソフトの使い方やWebページの作成方法を教える高校の「情報」の授業は導入開始から13年になるのに、あまり実を結んでいない。もはや「なかったことに」――などと、東大理学部の情報科学科のサイトでは忘却を促す始末。
そのサイトにはこのように書かれている。「これからはさらにPCというブラックボックスがどう作られ、どう活用できるのか、その背景にある考え方や理論へと、カリキュラムも高校の授業から大学の専門課程まで系統的に整えられるのが望ましい」と。
しかし、一般的にそんな状況にも関わらず、業界と結託した文科省の主導で、いつの間にやら教育のIT化が小中レベルでも叫ばれているのだ。
ただ、ITツールの導入については成果を上げつつある学校も出てきている。私学の中学でITツール導入の先進校として広く認知されているのが東京・北区の桜丘中学高校。14年度の中学・高校の入学生からiPadの本格活用を始めており、今年度から中高の全生徒が持つようになった。同校の動向に詳しい首都圏模試センター取締役の北一成氏によれば、「授業はもちろん、学校行事やクラブ活動など学校生活のあらゆる場面でiPadが使われ、『こんなこともできる』と生徒の創意工夫を助けるツールとして定着している」のだとか。
iPadの導入により、従来の講義型授業からペアワークやグループワークの生徒参加型授業が進み、主体的協働的に学ぶアクティブラーニングを実現。その結果、同校は15年度「第12回 日本e-Learning大賞」の文部科学大臣賞を受賞している。
また、この3月に中1数学の春期講習で、ITベンチャーCOMPASSが開発した「Qubena(キュビナ)」という人工知能型のタブレット教材を使用したところ、講習前後のテストで受講した生徒8人の平均点が10点も向上した。
「驚くのは指導を担当したのは全員、数学を専門としていない教員だったこと。最も成績が上がった生徒では28点の上昇が見られたといいます。IT化を主導する品田健副校長も『日頃よりも生徒たちが高い集中力で取り組み、学習に対して自発的になっていったように思う』とコメントしており、この種の産学協同の可能性を感じさせます」(北氏)
キュビナは各生徒がタブレットに入力するあらゆる情報(解答、解答プロセス、スピード、理解度など)を収集・蓄積・解析し、指導内容を個人に最適化させる人工知能型教材。「生徒が理解していない概念は何か?」「得意不得意はなんなのか?」を分析し、一人一人の理解力向上のために最適な問題を出し続けるシステムだ。
ヒントや解説が出るので、教科指導の必要がないのも特徴だが、それでも“先生いらず”というわけではない。指導用の「Qubenaマネージャー」に表示される解答時間や正答率などの情報を基に、生徒を励ましたり褒めたりする「コーチング」が教員の大切な役目になるのだという。
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