長く売れ続ける「定番」を狙う デザイナー・小関隆一氏のモノ作り哲学とは?:「全力疾走」という病(7/7 ページ)
ワインボトルの形をしたLED照明「Bottled」や、ペン型のはがせる水性塗料「マスキングカラー」など、ユニークな日本の技術をうまく組み合わせた商品をデザイン。これらは国内外で売れ続けている。その仕掛け人、デザイナーの小関隆一氏の生き方を追った。
日本はマニアックな技術がある
マスキングカラーも同じく定番を狙ったものだ。実は、はがせる塗料というもの自体は、塗料の世界では決して珍しくはない。けれども、一般の人たちにとっては新鮮なので、そこに小関は目を付けた。
「ただ、普通の人ははがせる塗料に馴染みがないので、親しんでもらう工夫が必要でした。はがせるテープがマスキングテープなので、まずは名前を『マスキングカラー』にしました。次に、塗料と言われても多くの人は接したことがないし、どう使っていいのか分かりません。実際に塗料を使うとなるとバケツやパレット、はけなどの道具を用意しないといけません。それが障壁になるのであれば、すべて取っ払って、ボトルから直接使えるようにペンタイプにしたのです」
定番のデザインを作る。小関にとっては、すぐに消費されるものよりも、長く愛されるものを作りたいという思いがある。しかも現在、定番になれるデザインが少なくなっているので、技術をうまく組み合わせて商品開発する取り組みが必要だと感じている。そういう意味で、日本にはマニアックな技術が多く、土壌としておもしろいのだという。それを引き出し、価値を与えていくのが自分自身の役割だとする。
その一方で、オーソドックスな文脈のデザインにも挑みたいと考える。例えば、師匠である喜多がその名を轟かせた椅子だ。
「これまでやってきた、ユニークな技術との組み合わせで定番を作ることはおもしろいし、意味もあると思います。一方で、デザイナーである以上、椅子のような王道の分野にも挑戦したい。そこにはスーパースターと呼ばれるようなデザイナーがひしめき合っています。彼らと同じ土俵に立って自分のデザインスキルと考え方がどこまで通用するかチャレンジし、世間を驚かせていきたい」
一度これだと決めたならば、ほかには目をくれず、そのことだけにとことん集中する。それが小関のこれまでの人生を形作ってきた。静かな闘志を燃やしながら語る彼の目は、未来を見つめて爛々と輝いていた。
(敬称略)
関連記事
- 音楽家出身のフリーマンCEOがブルーボトルコーヒーのビジネスで成功した理由
2002年に米国西海岸で創業したブルーボトルコーヒーは、国内で着実に店舗拡大するとともにブランド力を高め、2015年2月には初の海外出店として日本に進出を果たした。創業者であるジェームス・フリーマンCEOは元クラリネット奏者のアーティストだ。そんな彼がブルーボトルコーヒーで“表現”したいこととは――。 - 漫画が売れたら終わりではない 敏腕編集者・佐渡島氏が描く『宇宙兄弟』の次
講談社時代、漫画『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』など数々のヒットを飛ばした編集者、佐渡島庸平氏。大手出版社勤務というキャリアを捨てて彼が選んだのは、作家エージェントとしての起業だった。彼を駆り立てるものは一体何だったのだろうか――。 - 「仕事は与えられるものではない」――私の行動を変えたある事件
MAXとしてデビューしてから順調に活動を続けていた私たちに、ある日突然、事件が起きました。それまで仕事は自然とやって来るものでしたが、その価値観が180度変わってしまったのです……。 - 会社勤めをやめ、カフェを開く意味
カフェは店主やお客によって育てられると同時に、店主やお客を育てていく。この相互作用を体現しているお店、雑司ヶ谷の「あぶくり」と中板橋の「1 ROOM COFFEE」もそんなカフェと呼べるだろう。 - 自ら上場させた会社を辞め、2度目の起業を決意するまで
26歳で初めて創業した会社のビジネスが軌道に乗り、30歳で結婚し、3人の子どもの出産、そして上場。公私ともに順風満帆だった私を、ある日突然、悲劇が襲いました。「何とかするしかない!」。そう心に誓って、困難に立ち向かっていったわけですが……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.