東京の「地下鉄一元化」の話はどこへいったのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
東京の地下鉄一元化は、2010年、石原慎太郎都知事時代にプロジェクトチームが発足し、国を交えて東京メトロとの協議も行われた。猪瀬直樹都知事が引き継いだ。しかし、舛添要一都知事時代は進ちょくが報じられず今日に至る。この構想は次の知事に引き継がれるだろうか。
財務省と国土交通省の立場
国土交通省は交通事業を統括する立場として中立な立場と言える。いや、国民にとって便利な交通機関を実現するなら、本来は一元化賛成の立場、リーダーシップを発揮していい。そうならない理由は、第4の当事者、財務省である。なぜここで財務省が絡むかと言えば、東京メトロの筆頭株主だからである。その経緯には国鉄の赤字問題と分割民営化が関係する。
1951年に営団地下鉄の出資者と出資比率が変更された。公共性、公平性を維持するため、大手私鉄の出資金を返還し、その代わりに東京都が増資、国鉄が出資した。ところが国鉄は累積赤字問題を抱え、ついに分割民営化されてしまう。国鉄の出資金は国に返還されて財務省に継承された。その結果、営団地下鉄の出資比率は財務省が53.4%。東京都が46.6%になった。
そして営団地下鉄は小泉純一郎内閣時代の「聖域なき構造改革」によって民営化へ向けて歩み始める。2004年4月、営団地下鉄は東京地下鉄株式会社、愛称は東京メトロとなった。出資金は同比率の株式に変換された。将来は完全な民営会社になるため上場する目標だ。東京メトロが上場し、株式を売却すれば、財務省(政府)と東京都は巨額の財源を手にする。
これは国鉄がJRグループに移行し、JR東日本などが上場した事例に似ている。違いは会社が赤字か黒字か。営団地下鉄は黒字の優良案件である。つまり、財務省と東京都にとって、東京メトロの株は財産であり、その価値を高めたい。東京メトロの業績が伸びていく現状では、財務省にとって東京メトロは安全で増え続ける財産だ。
こうなると、都営地下鉄の一元化は、東京メトロの価値を高めるか否か、という問題になる。財務省、東京メトロは都営地下鉄の長期債務を問題とし、一元化は東京メトロの価値を下げると考えている。対する東京都は「事業は黒字転換しており、債務は大きな問題ではないし、株式を高く売れるか、ということではなく、利用者の目線に立つべき」と主張する。
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