トルコのクーデターは“独裁者”の自作自演だったのか?:世界を読み解くニュース・サロン(2/3 ページ)
トルコでクーデター未遂事件が発生した。クーデターの試みはあっという間に鎮圧され、エルドアン大統領は「自分はヒーロー」であるかのような演出をしてみせた。そんな大統領が、実は世界的にすこぶる評判が悪いのだ。
エルドアンのために「毒味係」が5人
エルドアンは「独裁者」らしく、自宅である大統領官邸も多額の税金をかけて豪華絢爛な建物をつくっている。2014年に完成した新大統領官邸は米ホワイトハウスの30倍以上の広さを誇り、分かっているだけで1150室もある(メディアが1000室であると報じたら、エルドアン自ら1150室だ、と訂正した)。総工費は6億1500万ドルに達するという(実際には部屋数ももっと多く、費用ももっと高いと言われている)。
またその隣に、大統領と家族が住む住居部分を工事中で、そちらは250室と4000人が入れるモスクがある。トルコは政教分離を標榜して世俗主義を国是としているにもかかわらず、だ。野党議員はあきれて、「あんな宮殿に住みたいのは独裁者だけだ。常識ある国家元首なら、もう少し控えめな住まいで生活するだろう」とメディアで酷評している。
さらに官邸にはエルドアンのために「毒味係」が5人いる。彼らは1日14時間体制で官邸のラボに詰め、大統領の食事の安全性をチェックしているという。とはいえ、実際に食べてみて安全かどうかを確かめるのではなく、ラボの中で食料の安全性から、放射性物質や毒物、細菌などの有無までを検査機器などで調べている。またこの5人は、大統領の栄養管理も行っている。もちろん世界中の指導者が食事の安全性には注意を払っているが、彼の場合は常軌を逸している感がある。
今回のクーデター未遂では、このエルドアンの独裁的統治の象徴ともいえる大統領官邸にも爆弾が落とされている。
だが大統領が本当に独裁的であると言われるゆえんは、メディアなどに対する弾圧だ。例えば、2012年に大統領は記者や編集者ら94人を投獄して世界的に批判されているし、2015年には彼の汚職について書いたトルコ最大日刊紙ザマンの編集長が「クーデター」の容疑で逮捕され、新聞社そのものが当局に差し押さえられた。またその直後にも大統領に批評的だった別の老舗新聞社の編集長らが「スパイ」の容疑で逮捕されている。
実は2014年にエルドアンが首相になってからこれまでに、彼を侮辱したとして2000件ほどの訴訟が起きている。2015年にはFacebookでエルドアンを批判するポストに「いいね」を押したジャーナリストが禁固刑になったケースもある。またその動きは国外にも広がっており、2016年にトルコ政府は、ドイツのテレビ局でエルドアンをバカにする詩を公表したドイツ人風刺作家を刑事訴追するようドイツ政府に要求したことで、世界的にニュースになった。今回のクーデターでも、クーデターに関与したとして42人のジャーナリストに逮捕状が出されたことで世界的に大きく報じられている。
さらにエルドアンはSNSなどを毛嫌いしており、過去にはSNSを容赦なく遮断させてきた。2013年にSNSは「社会にとって最悪の脅威だ」と述べ、2014年に自らの汚職疑惑がツイートされたことで激怒し、「われわれには裁判所の令状がある。Twitterを根絶する。国際社会がなんと言おうが関係ない。みんながトルコ共和国の力を思い知るだろう」と発言して、実際にTwitterを遮断した。FacebookやYouTubeも過去に禁止されたことがある。
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