無名な店ばかりなのに、客が集まる商業施設が浅草にあった:繁盛店から読み解くマーケティングトレンド(4/4 ページ)
消費者の目が厳しくなった今、単に安くて良いものが買えるというだけでは繁盛店にはなりません。そうした中、昨年12月に開業したばかりの東京・浅草の商業施設は、なぜ連日のように大勢の人たちで賑わっているのでしょうか。その理由を探ります。
出店しやすい条件を整備
次の特徴は、出店する企業への手厚いサポートです。手軽に出店しやすいイベントスペース「おすすめふるさと」ブースは、1市町村当たり約2.7坪に高機能演出照明(スペースプレーヤー)と特製展示台1台を配置。第1期の契約期間は、2015年12月〜2017年3月までの16カ月間で、賃貸借料は、固定賃料で月額税別15万〜20万円、共益費は月額1万円。展示品販売の売り上げ手数料は、売上高の15%です。浅草のこの立地でこの賃料は決して高くはないでしょう(注:2015年9月時点の出店条件)。
1〜2階の通常店舗も5年契約の賃貸借契約となっています。定期的に出店する市町村の入れ替えを行い、紹介できる地方を増やしていきます。
今後はこの施設が全国の主要な都市に広がっていくようになるかもしれません。同社ではこの業態を地方だけでなく、アジアをはじめ海外にも出していきたいという意向があるとも聞きました。
インバウンド需要にかげりが見え始めた今、訪日外国人に頼るのではなく、日本人が喜ぶような店を真剣に考えることで、地方創生をキーワードにしたビジネスの次の一手が見えてきます。
どこでも買えるような商品ではなく、マイナーな商品、一般化していない商品は、日本にまだまだあります。そのような商品を探して消費者に提案することが、たとえ中小企業であっても繁盛店になる可能性を秘めているかもしれません。
消費者の目が厳しくなった今、地方を盛り上げるとか、インバウンドに対応するとか、そんな見え透いたやり方にはお客さんは感動しません。逆に、店を作る側が「これはおもしろいはず」「これなら今までにないもの」「これならお客さんもびっくりするはず」という一点にこだわる割り切りが大切です。その点で「マイナー」というキーワードは今後のポイントになりそうです。
著者プロフィール
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
株式会社 船井総合研究所 上席コンサルタント兼ブランドプロデューサー
1969年、静岡市生まれ。ファッションを専門分野とした流通小売業界のコンサルティングのスペシャリスト。百貨店の営業戦略および全社MD戦略立案、GMSの売場再構築、大手メーカーの新規ブランド開発、SPA型小売業の事業戦略策定、中小専門店の現場支援コンサルティングなどを通じ、各業界で注目を集めるグレートカンパニーを数多く輩出させている。街歩きと店歩きによる消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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