夕張市がJR北海道に「鉄道廃止」を提案した理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
JR北海道が今秋に向けて「鉄道維持困難路線」を選定する中、夕張市が先手を打った。市内唯一の鉄道路線「石勝線夕張支線」の廃止提案だ。鉄道維持を唱える人々は「鉄道がない地域は衰退する」「バス転換しても容易に廃止される」という。夕張市の選択はその「常識」を疑うきっかけになる。
鹿屋市に鉄道はない
地域で鉄道存続に取り組む人々や、鉄道ファンの間では「鉄道がない地域は衰退する」「バス転換されると、そのバスも簡単に廃止されてしまう」が定説になっている。1980年に国鉄再建法が成立し、赤字ローカル線の整理が行われた。このとき、廃止またはバス転換された地域については、結果として衰退した地域が多い。
駅がなくなると地図に載らなくなる。観光客が行き先を選ぶときの選択肢から外れる。観光客だけではなく、企業の誘致、移住者の受け入れも難しい。確かにその通りだ。しかし、見方を変えれば、衰退しているから鉄道を維持できなくなった、鉄道があってもなくても衰退する運命にあった地域とは言えないだろうか。
反証として「鉄道がなくても発展した地域、あるいは衰退しなかった地域」はあるだろうか。それがあるのだ。1つは誰もが知っている沖縄県だ。太平洋戦争で鉄道が壊滅し、その後に米国流のモータリゼーション文化の洗礼を受けた。2003年にモノレール「ゆいレール」が開業するまで半世紀以上も軌道系交通機関はなかった。その間に沖縄は衰退したか。本土復帰政策や沖縄振興政策もあったとはいえ、那覇市は観光都市として発展し、むしろモノレールが必要なほどの地域になって今日に至る。
もう1つは鹿児島県鹿屋市だ。大隅半島の中央部、人口10万人以上。鹿児島市、霧島市に次いで県内の人口が多い。農業、畜産、漁業が盛んで、鹿児島黒豚、鹿児島黒牛は鹿児島県下1位の生産地。豚の出荷数は全国1位。カンパチやうなぎの生産量も全国上位。海軍基地を発祥とする海上自衛隊鹿屋航空基地があり、大規模事業所として地域の発展に寄与している。工業も電気機械製造業の集積、金型製造業など地元企業が堅調で企業誘致にも成功した。その勢いがあれば商業の発展も想像に難くない。
その鹿屋市には鉄道がない。鹿児島県第3位だけど鉄道はない。いや、かつてはあった。国鉄大隅線だ。1915年に南隅軽便鉄道が鹿屋〜高須間を開業して以降、大隅鉄道への改組や国有化という流れの中で、少しずつ延伸して1972年に国鉄大隅線として全通した。起点は港湾都市の志布志駅(鹿児島県志布志市)、終点は日豊本線の国分駅(鹿児島県国分市、現在は霧島市)で、途中の10駅が鹿屋市にあった。しかし、国鉄の赤字線整理によって1987年3月に廃止、バス路線に転換された。JR九州発足の半月前だった。
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