ホンダNSX 技術者の本気と経営の空回り:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
ホンダが高級スポーツカー「NSX」の国内受注を約10年ぶりに始めた。新型の細部に目をやると同社技術者の本気度合いが伝わってくる。その一方で、販売の無策ぶりが気になるところだ。
わずかに残る不安とそれを上回る期待
さて、NSXは果たして乗ってみたらどうなのだろうか? そこには少しだけ疑いがある。それはSH-AWDを最初に搭載したレジェンドの記憶があるからだ。駆動力で曲がるためには、旋回中はアクセルを踏まなければならなかった。当然クルマは加速する。踏まないとクルマを曲げる力が弱まり、だらしないアンダーステアが顔を出すからだ。しかしずっとアクセルオンだとどんどん加速して行ってしまう。
だからコーナーを抜けたらブレーキで速度調整をしなくてはならない。進入前に十分に減速するのはこれまでの運転メソッドと変わらないが、コーナーの進入でも旋回でもアクセルオン、抜けたらブレーキという奇妙な運転になる。そうしなければ恐らく時速180キロでリミッターが効くまでひたすら踏み続けることになっただろう。そんな運転はできない。
NSXでは回生ブレーキを使うことができるので、そうならない可能性がある。というか、そうであって欲しい。
話は再び動力源に戻る。ハイブリッドのメリットはモーターの低速駆動力の太さとレスポンス、それに高速でのエンジンのパワフルさをいいとこ取りできる点にある。しかし高速になるとモーターが足手まといになる。モーターは高回転になるとトルクが落ち、過熱する。これがモーターの寿命を縮めるのだ。NSXのフロントモーターは、クラッチを仕込み、時速200キロでモーターを切り離す仕組みが作られている。そういう部分まで手抜きをせずキチンと作られていることに好感が持てる。
これまで読んで来て分かるように、ホンダは持てる技術を出し惜しみなく投入した。書き足せばキリ無く喝采を送るべき設計が成されている。今のところ、気になる点はアメリカナイズされすぎたデザインと、丸くないステアリングホイールの造形、それに電制ダンパーの3つだけだ。その先は乗ってみないと何とも言えない。
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