鉄道物流から考える豊洲市場移転問題:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
東京・築地市場の豊洲移転問題が取りざたされている。豊洲新市場の土壌汚染の疑いや設計手順、築地市場の老朽化とアスベスト問題が争点になっているようだ。ここでは、物流面から市場移転問題を考えてみたい。もしかしたら、豊洲新市場は近い将来に役目が変わるかもしれない。
豊洲市場も鉄道貨物復権に期待できる
しかし、各地から東京市場駅の鮮魚輸送は1984年に終了する。理由は荷物扱い量低下のため。これは日本の鉄道貨物衰退の流れに沿っている。
1970年代から始まる労働組合の順法闘争による列車遅延で荷主がトラックに移行し始め、1975年の8日間にわたるスト権ストでも荷主の反感を買った。また、国鉄の赤字是正のため、運賃を毎年のように値上げし続けた。また、同時期に大型トラックの普及、高速道路、一般道路の整備が進んだ。国鉄分割民営化の議論の中で、汐留貨物駅の売却も検討されていた。
鉄道輸送がなければ築地市場のメリットはない。交通面から見て、1984年に築地市場の役目は終わったと考えていい。築地市場は1935年の正式開場から半世紀になろうとしていた。場内はトラック輸送に対応しておらず、トラックから仲卸、倉庫までを小さなターレが走り回って補完する状況になっている。もっと早く、トラックに対応した施設に建て替えるか、新しい場所に移転すべきだった。しかし、それをいま悔いても仕方ない。
鉄道輸送の遺構を残した築地市場より、大型冷蔵トラックに対応する新しい市場のほうが便利だ。その意味で豊洲市場への移転は正しい選択だ。豊洲埠頭は鉄道がない。旅客専門のゆりかもめがあるだけだ。南の有明埠頭にはりんかい線が通っており、この線路はもともと貨物線として作られた。しかしここから豊洲埠頭への接続線開通は費用対効果の点で難しいだろう。
道路交通として見ると、豊洲市場は首都高速湾岸線が近く、豊洲出入口が最寄りだ。首都高速湾岸線は片側3車線以上の大容量道路だ。東京の南側で横浜方面、東側で千葉方面につながる。東京23区、横浜市、千葉市の中心部を迂回してくれるから、渋滞に遭遇しにくい。トラック便以外の経路も使える。築地市場からも道のりで約3キロメートルだから、従来の築地近辺の顧客とも連携できるだろう。事実、築地場外は移転しない。
注目すべきは、豊洲は鉄道貨物輸送にも期待できそうな立地であるという点だ。南の大井埠頭にはJR東京貨物ターミナルがある。全国から到着した貨物列車から、ここで鉄道コンテナを積み替える形で豊洲市場に運び込める。そう考えると、豊洲新市場は、新時代の鉄道貨物輸送にも対応した市場とも言える。羽田空港があって航空貨物便と接続しやすい。鮮度が重要な高級食材にとって、航空便との連携も重要になるはず。
道路、航空、鉄道との輸送連携という意味では、神田青果市場などを移転した大田市場は絶好の立地と言える。東京貨物ターミナルの南にあり、鉄道と連携しやすい。豊洲移転を止めて大田市場に統合してはどうかという意見もあるという。輸送連携という面では正しい考え方だと思う。悔やまれるけれど、大田市場と豊洲市場の機能の格差はトラックで中継する距離の差にすぎないとも言える。
欲を言えば、りんかい線から豊洲新市場へ線路を敷き、東京貨物ターミナル経由で冷蔵コンテナ貨物列車を乗り入れたい。しかしこれは前回同様、国の物流政策で鉄道を生かすと決めない限り夢物語だ。
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