鉄道物流から考える豊洲市場移転問題:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
東京・築地市場の豊洲移転問題が取りざたされている。豊洲新市場の土壌汚染の疑いや設計手順、築地市場の老朽化とアスベスト問題が争点になっているようだ。ここでは、物流面から市場移転問題を考えてみたい。もしかしたら、豊洲新市場は近い将来に役目が変わるかもしれない。
電子市場の到来に対応できているか
物流面にとって豊洲市場は、現状において良い選択だ。しかし懸念材料もある。「私たちは市場というシステムをいつまで使い続けるか」という問題だ。生産地から生産物を大量に運び込み、市場が受け入れて大消費地に拡散させる。豊洲のような大型市場はこのシステムが前提だ。しかし、IT技術が発達した今日、鮮魚も電子市場が拡大するかもしれない。
私が知る限り、鮮魚の電子市場の研究は1990年代後半から始まっている。冷凍、冷蔵流通技術の発達により、産地直送を掲げる飲食店が増えた。ならば、当時、工業のサプライチェーンに似たシステムで、築地を介さず、インターネット上の市場で生産者と消費者をマッチングさせたらどうか、というものだ。東北のある漁協と地元の大学、大手IT企業の共同研究について聞いたことがある。
しかし、日本ではいくつかの鮮魚電子市場が立ち上がりかけては消えていった。実際は電子取引よりも、中央市場システムを好む生産者が多かった。生産側のITに対する習熟度が浸透していなかった。そして、生産地にとっては、個別の顧客に対して納品するよりも、ドンと市場に送った方が手間が省け、扱い高も大きくなるからだ。生産地と消費者の直接取引は通信販売で細々と行われる程度だ。
一方、消費者は魚屋やスーパーで買う魚、飲食店で食べる魚が、中央市場経由か電子取引かは関係ない。おいしければどっちでも良い。しかし、この「おいしければ」の部分で、中央市場の役割が大きかった。「目利き」の存在だ。一年中、日本各地から集まる魚を見て、知識と経験を蓄えた仲買人たち。その役割を代替できるシステムが電子取引には欠けていた。
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