鉄道物流から考える豊洲市場移転問題:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
東京・築地市場の豊洲移転問題が取りざたされている。豊洲新市場の土壌汚染の疑いや設計手順、築地市場の老朽化とアスベスト問題が争点になっているようだ。ここでは、物流面から市場移転問題を考えてみたい。もしかしたら、豊洲新市場は近い将来に役目が変わるかもしれない。
始まっている鮮魚の電子市場
鮮魚流通にとって電子商取引は成立しないか。いや、そうとも限らない。
豊洲市場は「いなせり」という電子市場システムを準備中だ。仲買人と料理人をマッチングするシステムである。東京魚市場卸協同組合に加わる約600社の仲卸業者が翌日に出荷できる商品を登録しておく。飲食店はその中から、午前2時までに希望の魚をWebサイトで発注する。その情報を基に、運送業者が梱包とルート別の仕分けを実施し、即日配送する。このシステムは豊洲市場開設後に運用開始すべく準備中だ。
2011年に、このサービス範囲を拡大した「八面六臂(はちめんろっぴ)」というサービスが始まり、この運営企業は「鮮魚流通のAmazon」として話題になった。築地市場や大田市場などの仕入れと、全国各地の産地市場や生産者からの仕入れを組み合わせ、オンラインで注文、決済し食材を飲食店に届ける。扱い品目は鮮魚だけではなく、築地市場や大田市場などの中央卸売市場経由の仕入れである青果、精肉などもある。
いなせりは市場の協同組合主導だから、市場抜きのビジネスはあり得ない。しかし、同様のシステムで、生産地が直接仲買人を請け負ったらどうなるか。八面六臂は既に生産者からも仕入れている。このような電子市場が大きくなると、豊洲新市場を経由する魚は減っていくかもしれない。こうした流れに、豊洲新市場は対抗するか、あるいは取り込んでいくか。どう舵を切るつもりだろうか。
物流面で見れば、電子市場取引が拡大すると小口の荷物が多くなる。従来の「生産地から市場への大量輸送」は反比例して減っていくだろう。冷蔵貨物列車の築地市場、大型冷蔵トラックの豊洲市場、では、第三の市場「電子市場」はどうなるか。現実に必要な市場はもっとコンパクトで、小口の電子取引を支援する管制塔のような存在になるかもしれない。豊洲市場には対応する設備と覚悟があるだろうか。
関連記事
- 「電車には乗りません」と語った小池都知事は満員電車をゼロにできるか
東京都知事選挙で小池百合子氏が圧勝した。小池氏が選挙運動中に発した「満員電車をなくす、具体的には2階建てにするとか」が鉄道ファンから失笑された。JR東日本は215系という総2階建て電車を運行しているけれど、過酷な通勤需要に耐えられる仕様ではない。しかし小池氏の言う2階建てはもっと奇抜な案だ。そして実現性が低く期待できない。 - 東京の「地下鉄一元化」の話はどこへいったのか
東京の地下鉄一元化は、2010年、石原慎太郎都知事時代にプロジェクトチームが発足し、国を交えて東京メトロとの協議も行われた。猪瀬直樹都知事が引き継いだ。しかし、舛添要一都知事時代は進ちょくが報じられず今日に至る。この構想は次の知事に引き継がれるだろうか。 - 2018年「大阪メトロ」誕生へ、東京メトロの成功例を実現できるか
2006年から検討されていた大阪市の地下鉄事業民営化について、ようやく実現のめどが立った。大阪市営地下鉄は2003年度に黒字転換し、2010年に累積欠損金を解消した優良事業だ。利益を生む事業なら市営のままでも良さそうだ。大阪市が民営化を目指した理由とは……? - 羽田空港を便利にする「たった200メートル」の延長線計画
国土交通大臣の諮問機関「交通政策審議会」が、2030年を見据えた東京圏の鉄道計画をまとめた。過去の「運輸政策審議会答申18号」をほぼ踏襲しているとはいえ、新しい計画も盛り込まれた。その中に、思わずニヤリとする項目を見つけた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.