国産初のジェット機MRJ 実はあまり収益に期待できない理由:加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)
初の国産ジェット旅客機であるMRJの開発に黄色信号が灯っている。三菱重工業は既にMRJの開発に4000億円近い費用を投入しているとも言われるが、プロジェクトとして利益を上げることはかなり難しくなっている。MRJには三菱の顔としての役割があるものの、全社的な収益にはほとんど貢献しない可能性が高いのだ。
初の国産ジェット旅客機であるMRJの開発に黄色信号が灯っている。三菱重工業は2018年半ばというスケジュールに変更はないとしているが、納入延期のリスクを関係者に通知したとも報じられている。これ以上、開発が遅れた場合、ライバルであるブラジルのエンブラエル社との競争が一段と激しくなってくることは確実である。
さらにいえば、航空機の製造というのは、実はもうからないビジネスとなりつつある。この世界にもコモディティ化の波が押し寄せており、産業構造の変化が進んでいるのがその理由である。三菱重工業は既にMRJの開発に4000億円近い費用を投入しているとも言われるが、プロジェクトとして利益を上げることはかなり難しくなっている。MRJには三菱の顔としての役割があるものの、全社的な収益にはほとんど貢献しない可能性が高いのだ。
これ以上遅れると……
三菱重工業は、MRJについて当初は2013年納入を目標に開発を進めていたが、3回ほど開発スケジュールが延長され、初飛行に成功した2015年11月時点では2017年にズレ込んでいた。その後もスケジュールの変更があり、現在では2018年半ばをメドとしている。
MRJの開発作業は、最大の関門の一つである飛行試験の段階に入ったところである。完成機を路線に就航させるためには、機体の型式証明を取得するため、累計2500時間に及ぶ飛行試験を実施しなければならない。
今年8月には、日本を飛び立ったテスト機が空調システムの不具合などで2度引き返すというトラブルが発生。3度目のトライでようやく移送を完了するというハプニングがあったが、ようやく米国での飛行試験開始にこぎ着けた。
新しい航空機を開発するにあたってトラブルはつきものであり、仮に再度、遅延となった場合でも、そのこと自体が問題となるわけではない。だが、ビジネス面を考えるとそうも言っていられなくなる。
最大の問題は、ライバルであるエンブラエル社の最新鋭機納入のタイミングが近づいていることだ。同社はMRJの競合となる機体の納入を2020年に開始する予定となっているが、今のところMRJはエンブラエル社より2年納入が早いことがアドバンテージとなっている。
これ以上、開発が遅延するとMRJはエンブラエル社と直接争う必要が出てくる。エンブラエル社は新規参入の三菱重工業とは異なり、豊富な納入実績があるため、直接、競合する事態になった場合には三菱重工業の苦戦が予想される。
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