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国産初のジェット機MRJ 実はあまり収益に期待できない理由加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)

初の国産ジェット旅客機であるMRJの開発に黄色信号が灯っている。三菱重工業は既にMRJの開発に4000億円近い費用を投入しているとも言われるが、プロジェクトとして利益を上げることはかなり難しくなっている。MRJには三菱の顔としての役割があるものの、全社的な収益にはほとんど貢献しない可能性が高いのだ。

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航空機産業に過大な期待を寄せる時代は終わった

 MRJ最大のライバルであるエンブラエル社は、現在、世界第4位の航空機製造メーカーである。もともとはブラジルの国営企業としてスタートしたが、当初は赤字続きで経営は安定しなかった。その後、1994年に民営化を行い、小型ジェットと中型ジェットで成功したことで業績が安定したという経緯がある。

 同様に、小型・中型ジェット機を製造しているカナダのボンバルディア社も、国営企業を買収し、かなりの時間をかけて現在の生産体制を確立した。エンブラエル社とボンバルディア社のケースを考えると、航空機メーカーが経営を軌道に乗せるまでにはかなりの時間がかかるとみた方がよいだろう。

 こうした状況を考えた場合、MRJについては機種単体として捉えるのではなく、もっと長期的な視点が必要ということになる。実際、MRJによって航空機関連産業の裾野が広がることを期待する声も大きい。政府が開発費の一部を負担したことにはこうした事情もある。

 だが、これについても過度な期待は禁物である。先にも触れたように、現代の航空機産業はコモディティ化が進んでおり、MRJの成功がそのまま国内関連産業の育成につながるとは限らないからだ。

 三菱重工業単体で見れば、航空機に参入するメリットはそれなりにあるし、大型機ではなくリージョナル機のマーケットに絞って参入を試みた点についても戦略的には間違っていない。だがMRJの成功によって、日本にも一大航空産業が生まれるというシナリオは描きにくいのが現実である。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


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