国産初のジェット機MRJ 実はあまり収益に期待できない理由:加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(3/4 ページ)
初の国産ジェット旅客機であるMRJの開発に黄色信号が灯っている。三菱重工業は既にMRJの開発に4000億円近い費用を投入しているとも言われるが、プロジェクトとして利益を上げることはかなり難しくなっている。MRJには三菱の顔としての役割があるものの、全社的な収益にはほとんど貢献しない可能性が高いのだ。
1500機以上を売らないと開発の回収は難しい
MRJのカタログ上の価格は30〜40億円である。発注する機体の数や納入条件などによって現実の価格は変動するが、仮に40億円とすると、MRJを1機売った場合、三菱重工業の利益は当初は数億円程度にとどまる可能性が高い。これは同社幹部の説明からも、ある程度、裏付けが可能だ。
2010年の段階で三菱航空機の幹部は、月産5〜6機の生産体制を確立し、それが6〜7年続けば採算が安定すると説明していた。月産6機体制を7年継続した場合の累積機数は約500機となるが、1機3億円の利益で500機を生産できれば、トータルの利益は1500億円となる。当時、MRJの開発費は1500億円程度と見込まれていたので、つじつまは合う。
現在、同社はMRJについて1000機の受注獲得を目指している。1機当たり3億円の利益と仮定すると、1000機販売できれば3000億円の利益である。一方、当初1500億円と見込まれていた開発費は、相次ぐ遅延で膨らむ一方となっており、初飛行に成功した2015年時点では3000億円程度となっていた。
その後の開発遅延が続いていることから、現在では4000億円程度になっているという報道もある。1000機の販売目標という数字は、3000億円の開発費を前提にコスト積み上げ方式で出てきた数字であり、もし開発費が4000億円に達しているならば、さらに500機近くの受注を獲得しないと開発費を回収できない計算になる(継続的な大量生産が可能になれば原価率の低下が期待できるが、ここでは一定と仮定する)。
今のところ三菱重工業は400機程度の注文を獲得しているが、うち半分はキャンセル可能な契約だという。開発がさらに遅延することになれば、キャンセルのリスクも高くなってくる。1000機という目標を達成するのも厳しいが、利益を出せる1500機という水準になるとさらに難易度は上がるだろう。
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