加速するフィンテック なぜ銀行の既存ビジネスを破壊するのか:加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)
金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせたフィンテック。日本はこの分野では既に周回遅れになっているとも言われるが、徐々に環境は整備されつつある。フィンテックの現状について整理し、今後の展望について考えてみたい。
フィンテックの本質は銀行ビジネスの破壊にある
ビットコインによる短期的な影響が大きいのは海外送金の分野である。現在、国をまたいで送金を行うためにはかなりのコストが発生する。マネーロンダリング(銀行口座間の移動や商取引などを経由させることによって、不正に得られた資金であることがばれないようにする行為)対策もあり、ますます海外送金はやりにくくなっているのが現状だ。クレジットカードがあるとはいえ、通貨が変わると為替レートも変わり、旅行者は常に不便を強いられている。
ビットコインがグローバルに共通する決済通貨として拡大することになれば、ビットコインの利用者は、為替レートを気にせず各国どこでも決済することができる。また先ほど紹介したネット上の融資サービスとの親和性も高い。
海外のちょっとしたプロジェクトに対して送金する場合、ビットコインのインフラを使えば大幅にコストを削減できる。融資も同様で、ビットコインをベースにすれば、法制度の問題はともかくとして、国境をまたいだ融資ビジネスがすぐに実現できる。ビットコインの業界では、国境に関係なく個人や事業会社に融資するプラットフォーム企業が既に登場しており、状況によっては大きく市場が拡大することになるだろう。
国内では、海外送金のニーズはそれほどないのでインパクトは小さいとの見方があるが、必ずしもそうとは言い切れない。コストが劇的に下がると、これまでは想像もしなかったニーズが生まれてくる可能性があり、現時点ではそれを正確に予想できないからだ。
国境を越えた送金やスマホとAI(人工知能)を使った融資の自動審査といったプラットフォームが整備されれば、従来の銀行が持つサービスはかなりの部分が不要になる。最終的には国の規制がどうなるのかというところに依存するが、市場メカニズムだけを考えれば、経営体力のない銀行は淘汰されていく可能性が高いだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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