なぜ滋賀県は北陸新幹線「米原ルート」に固執するのか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
北陸新幹線延伸区間は「小浜京都ルート」にまとまるだろう。しかし、滋賀県は費用対効果に優れた「米原ルート」を譲らない。北陸地域も近畿地域も望まない「米原駅乗り換え案」は、実は滋賀県にもメリットがない。それでも滋賀県は主張しなくてはいけない。これは「我田引鉄」という単純な話ではない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
「小浜ルート」「米原ルート」は別の計画路線だった
北陸新幹線は2015年3月に長野〜金沢間が開業し、現在は金沢〜敦賀間の建設に着手している。敦賀まで一気に開業させるか、途中の福井まで先行開業するか、という議論はあるけれども、敦賀までのルートは確定している。
しかし、敦賀〜新大阪までのルートが確定していない。これは1970年に制定された「全国新幹線鉄道整備法」に基づいて、翌年に告示された北陸新幹線の計画が「東京都〜長野市付近〜富山市付近〜大阪市」と大ざっぱに定められたからだ。
富山市付近〜大阪市という計画は、この2地点間ならどこを通っても良いとも読める。ただし、当時はほとんどの関係者が金沢市付近〜福井市付近〜米原市に至ると考えていた。新幹線を「既存の幹線の高速別線」と考えるなら、北陸本線に沿って米原市に至ると考える方が自然だし、米原から東海道新幹線に乗り入れると米原〜新大阪の建設は不要になる。
しかし、この「常識」を覆した政治家がいた。当時の総理大臣、田中角栄だ。福井県知事の強力な働きかけを受けて、1973年に北陸新幹線ルートに小浜市が追加され、事実上、米原ルートは不可能になった。ただし、米原と北陸を結ぶルートとして、同年に敦賀市と名古屋市を結ぶ「北陸・中京新幹線」も策定されている。この路線は関ヶ原、または米原で東海道新幹線に直通する前提と考えられていた。実はこれが北陸新幹線「米原ルート」の正体だ。元祖・北陸新幹線ルートである。
なぜ福井県は小浜市に新幹線を通したかったか。その理由は、現在、関西電力が運営する高浜原子力発電所、大飯原子力発電所の誘致のためであった。福井県若狭湾沿岸地域は原子力発電所の受け入れに前向きだった。発電所と周辺の関連事業によって雇用が増え、経済が活性化されるからだ。しかし、地域住民すべてが賛成というわけではない。そこで、経済活性化の裏付けとして新幹線を通してほしい、となった。
政府としては、反対運動が多い原子力発電所建設について、福井県の立候補はありがたい。そこで小浜市の新幹線経由を認め、翌年には発電所のある自治体に向けた交付金制度(電源三法交付金)も制定した。「福井県を見習いなさい、原発を誘致するとメリットがありますよ」という形にした。
それでも、小浜市〜大阪市間の経由地は定まっていない。建設費を考えると、小浜市と大阪市を直行するルートが妥当と考えられた。しかし、政府内に米原ルートや湖西線ルートを支持する意見も多かった。特に滋賀県と京都府が難色を示した。小浜〜大阪直行ルートの京都府内駅は亀岡市だ。京都府としては京都駅を経由してほしい。滋賀県も県内を通ってほしい。
関連記事
- 北陸新幹線延伸ルートは「JR西日本案」が正解
北陸新幹線延伸ルートの年内確定に向けた動きが活発になっている。2013年に与党検討委員会は3つのルートに絞り込んだ。しかし2015年8月にJR西日本から小浜・京都ルート、11月に与党検討委員長からは舞鶴・京都・関空ルートが示された。絞り込むどころか選択肢が増えている。ただし、このうち国益に沿うルートは1つしかない。 - 地域エゴだけで決めていいのか? 日本の骨格、北陸新幹線のルート
北陸新幹線の金沢延伸開業まで2年を切った。福井駅の先、敦賀までは2025年度開業目標となっている。しかし、その先の大阪まではルートが決まっていない。小浜ルート、湖西線ルート、米原ルートのどれがいいか。北陸、関西、関東の地域エゴだけで決めてはいけない。 - 「なにわ筋線」の開通で特急「ラピート」と「はるか」が統合される?
JR大阪駅周辺の新線計画が進ちょくしている。大阪駅の北側に北梅田駅(仮称)を作り、新大阪駅発着の特急を停車させる。さらにJR難波と南海難波新駅を結ぶ「なにわ筋線」構想が絡む。おおさか東線の新大阪駅延伸も組み合わせると、新たな環状ルートができる。 - 迷走する長崎新幹線「リレー方式」に利用者のメリットなし
「長崎新幹線」こと九州新幹線(西九州ルート)は、フリーゲージトレインの開発が遅れて2022年の開業が難しくなった。そこでJR九州が提示した代案が「リレー方式」。列車を直通せずに途中駅で乗り換えを強いるという。そんな中途半端な新幹線はいらない。 - 手詰まり感のJR北海道、国営に戻す議論も必要ではないか?
北海道新幹線開業を控え、JR北海道は背水の陣で経営の立て直しに取り組んでいる。しかし同社の報道発表も地元紙のスクープも悲しい情報ばかり。現場の士気の低下が心配だ。皆が前向きに進むために、斬新な考え方が必要ではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.