なぜ滋賀県は北陸新幹線「米原ルート」に固執するのか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
北陸新幹線延伸区間は「小浜京都ルート」にまとまるだろう。しかし、滋賀県は費用対効果に優れた「米原ルート」を譲らない。北陸地域も近畿地域も望まない「米原駅乗り換え案」は、実は滋賀県にもメリットがない。それでも滋賀県は主張しなくてはいけない。これは「我田引鉄」という単純な話ではない。
滋賀県の真意
JR西日本の湖西線は琵琶湖西岸を通る路線だ。起点は京都府の山科。終点は滋賀県の近江塩津。ほとんどの列車が京都発着となっている。また、近江塩津からは北陸本線に直通する。山科駅の次の大津京駅から滋賀県にあり、ほぼ全線が滋賀県内にある。
湖西線は元々、北陸方面と近畿地域を短絡するルートとして作られた。大阪発着の金沢行き「サンダーバード」が定期列車として24往復あり、繁忙期に臨時列車が走る。かつては大阪と札幌を結ぶ特急「トワイライトエクスプレス」が走り、大阪と新潟を結ぶ「きたぐに」も末期は湖西線経由だった。米原経由北陸本線の列車を高速化するために建設されたから、線路規格は高速度対応で、時速130キロメートルで走行できる。
普通列車と快速列車は京都〜近江舞子間が日中1時間あたり4往復、近江舞子〜近江今津間が1時間あたり2往復、近江今津〜近江塩津間1時間あたり1往復だ。滋賀県内を走っているけれど、京都への通勤・通学輸送が主になっている。近江舞子より北側は運行本数も少なく、主役は近畿と北陸を結ぶ特急列車だ。
JR西日本は、北陸新幹線が小浜京都ルートで延伸開業した場合、湖西線を並行在来線として分離する意向だ。サンダーバード24往復が新幹線に移行するから、これは当然の考え方と言える。ローカル区間より都市間連絡特急の通過需要が主な役割で、新幹線開業とともにローカル輸送のみとなってしまう。北陸新幹線金沢延伸前の北越急行ほくほく線に似ている。
整備新幹線の建設の枠組みは、並行在来線化について、JRからの分離までは定められている。では湖西線はどうなるか。貨物列車も引き続き通過するし、京都方面への一定数の需要がある以上、廃止するわけにはいかない。しかし、収入源となる特急列車は走らないから、民間企業は引き取れない。第三セクターとして存続させるなら、滋賀県が主体にならざるを得ない。
関連記事
- 北陸新幹線延伸ルートは「JR西日本案」が正解
北陸新幹線延伸ルートの年内確定に向けた動きが活発になっている。2013年に与党検討委員会は3つのルートに絞り込んだ。しかし2015年8月にJR西日本から小浜・京都ルート、11月に与党検討委員長からは舞鶴・京都・関空ルートが示された。絞り込むどころか選択肢が増えている。ただし、このうち国益に沿うルートは1つしかない。 - 地域エゴだけで決めていいのか? 日本の骨格、北陸新幹線のルート
北陸新幹線の金沢延伸開業まで2年を切った。福井駅の先、敦賀までは2025年度開業目標となっている。しかし、その先の大阪まではルートが決まっていない。小浜ルート、湖西線ルート、米原ルートのどれがいいか。北陸、関西、関東の地域エゴだけで決めてはいけない。 - 「なにわ筋線」の開通で特急「ラピート」と「はるか」が統合される?
JR大阪駅周辺の新線計画が進ちょくしている。大阪駅の北側に北梅田駅(仮称)を作り、新大阪駅発着の特急を停車させる。さらにJR難波と南海難波新駅を結ぶ「なにわ筋線」構想が絡む。おおさか東線の新大阪駅延伸も組み合わせると、新たな環状ルートができる。 - 迷走する長崎新幹線「リレー方式」に利用者のメリットなし
「長崎新幹線」こと九州新幹線(西九州ルート)は、フリーゲージトレインの開発が遅れて2022年の開業が難しくなった。そこでJR九州が提示した代案が「リレー方式」。列車を直通せずに途中駅で乗り換えを強いるという。そんな中途半端な新幹線はいらない。 - 手詰まり感のJR北海道、国営に戻す議論も必要ではないか?
北海道新幹線開業を控え、JR北海道は背水の陣で経営の立て直しに取り組んでいる。しかし同社の報道発表も地元紙のスクープも悲しい情報ばかり。現場の士気の低下が心配だ。皆が前向きに進むために、斬新な考え方が必要ではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.