通販事業者は“物流危機”にどう対応する?:“いま”が分かるビジネス塾(1/3 ページ)
宅配便最大手のヤマト運輸が、荷物の取扱量抑制の検討を開始した。アマゾンを中心にネット通販の荷物が急増したことで、現場が悲鳴を上げている。一方、AI(人工知能)を使った配送の最適化やシェアリング・エコノミーによる業務の一般開放など、イノベーションの波も押し寄せており、数年後には配送をめぐる環境が激変している可能性が高い。
宅配便最大手のヤマト運輸(以下、ヤマト)が、荷物の取扱量抑制の検討を開始した。取扱量抑制の声が上がったのはヤマト社内における労使交渉の場である。組合側が今のままでは業務に無理があるとして取扱量の抑制を要求。会社側もこれに応じ、具体的な方策の検討に入った。
2016年3月期におけるヤマトの宅配便取扱量は17億3126万個で、前年比で6.7%増加した。2017年3月期はさらに増える見込みで、同社では18億個を超えると予想している。宅配便の取扱量は毎年増加が続いており、2011年との比較では約3割も取扱量が増えた。
取扱量が増えた最大の要因は、言うまでもなくアマゾンをはじめとするネット通販の普及である。アマゾンは年会費3900円の有料会員(プライム会員)向けに「お急ぎ便」のサービスを提供している。お急ぎ便の場合には、時間によっては当日配送が可能となるため、利用者は欲しい商品を小まめに注文する傾向が顕著となる。
アマゾンは、自社販売の商品に加え、自社で販売していないマーケットプレイスの商品についても「お急ぎ便」で受け取ることができるサービスを始めている。対象なる商品が増えるので、こうしたサービスの拡充も宅配便の取扱量増大につながっている。
宅配便の取扱量増加はヤマトだけの話ではなく、市場全体としても同じだ。だが、2011年との比較を見ると、宅配便全体の増加量は17%にとどまっているので、ヤマトのシェアが大幅に拡大したことになる。その理由は、ヤマトの最大の競合である佐川急便(以下、佐川)が、アマゾンからの依頼を受け付けなくなったからである。
佐川はもともと企業向けの小口配送で伸びた会社であり、宅配便については後発である。またヤマトがシェア重視だったこともあり、佐川が撤退してもヤマトはアマゾンの配達を続けていた。
もちろんアマゾン側も宅配業界の人手不足事情はよく理解しており、お急ぎ便の配達については、SBSグループなど別の運送会社にも依頼するなど負荷の分散を図っている。だがヤマトは最大手であり、結果的にヤマトに多くのシワ寄せが行く形となった。
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