通販事業者は“物流危機”にどう対応する?:“いま”が分かるビジネス塾(2/3 ページ)
宅配便最大手のヤマト運輸が、荷物の取扱量抑制の検討を開始した。アマゾンを中心にネット通販の荷物が急増したことで、現場が悲鳴を上げている。一方、AI(人工知能)を使った配送の最適化やシェアリング・エコノミーによる業務の一般開放など、イノベーションの波も押し寄せており、数年後には配送をめぐる環境が激変している可能性が高い。
通販通販者の選択肢は3つ
ヤマトは今回の事態を受けて、従業員の残業時間を1割減らす方向性で見直しを検討している。具体的には、昼の時間帯指定サービスの廃止や夜間の時間帯指定の廃止、あるいは値上げといった方法だ。
荷物の総量が増える中、正午から午後2時までの時間帯指定配送があると、昼食を取れない従業員が出てくるなど現場へのシワ寄せが激しくなる。夫婦共働きや1人暮らしの世帯などは、夜間の時間指定配達を依頼するケースが多いと言われるが、これも従業員の帰宅時間を遅らせる結果につながる。時間指定の要件を緩くすることで、仕事にゆとりをもたせようという考え方である。
時間帯指定サービスの廃止はあくまで配送効率を高めることを狙ったものであり、同じ荷物をより短時間で配送するための方法ということになる。取り扱う荷物の総量は変わらないので、仮に時間指定サービスの見直しが行われたとしても、マクロ的にはそれほど大きな影響にはならないだろう。
だがヤマトが本格的に値上げに踏み切った場合には話は変わってくる。アマゾンなどの通販事業者に対して値上げの交渉を行えば、その結果次第では、取扱総量が実際に減少する可能性が出てくるからだ。
ヤマトが本格的に値上げの交渉に入った場合、通販事業者には3つの選択肢がある。1つは値上げを受け入れ、そのコストを自社で負担するか利用者に転嫁するというやり方。もう1つは、他の運送事業者に配送を委託するというやり方。最後は、自社配送網の拡充である。
どれを選択するのかについては、現時点での収益状況や運送事業者との力関係、市場の動向などで変わってくる。アマゾンは今のところ、値上げを受け入れる方針は示していない。アマゾンはSBSなど、ヤマト以外の事業者にも積極的に委託しているので、事業者を変更するという選択肢も十分に考えられる。ただ各社のキャパシティーはヤマトほど大きくないため、カバーできる量には限界があるだろう。
仮に通販事業者側が値上げを受け入れる場合でも、ヤマトのスタンス次第でネット通販事業者の対応も変わってくる。値上げを実施する代わりに配送要員を増やすといった措置があれば、通販事業者としては荷物の総量は変わらないので、値上げを受け入れやすいだろう。だがヤマトの側に、荷物の総量抑制という明確な意図があった場合には、この仮定もなりたたなくなる。
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