AIが普及しても営業職はなくならない?:“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)
近い将来、社会にAI(人工知能)が普及し、多くの仕事が機械に取って代わられるというのは、一定の共通認識となりつつある。だが具体的にどの仕事がAIに代替されやすいのかという部分については、人によって考え方が異なっているようだ。
外食産業の店員は生き残る?
以上の話を総合すると、どのような仕事がAIに取って代わられやすいのか、あるいは、どのような仕事がAIに代替されずに存続できるのか、おぼろげながら見えてくる。
AIに代替されやすいのは、高コストで知識偏重型の仕事である。先ほど例に上げたパイロットや会計士といった職種がこれに該当する。一方、もっともAIに代替されにくいのは、極めて低コストで、かつ単純ではない仕事である。例えば、外食産業の店員という仕事は、カバーする範囲が多岐にわたり、実は業務内容が複雑だ。調理や片付け、店内の清掃、在庫の確認、顧客とのやりとりなど、あらゆる能力を必要とする。
今後は、IT化によって課金やオーダーなどの部分ではAIが活躍するにしても、1人がこなさなければならない仕事は多い。しかも、店員の仕事は相対的に見るとそれほど高賃金とはいえない。このような職種はAI台頭後も、存続できる可能性が高いだろう。
介護も同様である。介護の現場では以前から人手不足が深刻となっており、介護ロボット導入に対する期待も大きい。だがこの仕事も総合的な能力が求められるため、AIによる代替は意外と難しいとされる。しかも外食産業と同様、労働者に求められるスキルが多岐にわたっているにもかかわらず、職員の相対的な賃金は安い。事業者はAIへの代替を簡単には決断しないだろう。
ただ、同じ介護の仕事といっても、要介護者の状況把握や簡単なコミュニケーション、スケジュール管理といった仕事は、かなりの部分をAIで代替することができる。むしろ過労や単純ミスによる見落としがない分、サービスのクオリティは上昇するかもしれない
これはどの職種でも同じことなのだが、仕事が丸ごとAIに取って代わられるというケースは少ない。一方、どのような職種であれ、同じ仕事をこなすために必要な人数は年々減ってくることになる。つまり、AIは仕事を奪うのではなく、成果が上がっていない人からそのポストを奪う可能性が高いのだ。
冒頭で紹介した営業職のAI化についても同じである。営業支援システムにAIを搭載すれば、AIは成績が上がっている人の仕事を学習するようになり、メールの出し方や資料の作り方などについて、成績が上がらない人を指導するようになっていく。
そうなってくると、部署として同じ売り上げを維持するために必要な社員の数は徐々に減ってくる可能性が高い。またAIに有益な情報を提供できた営業マンとそうでない営業マンは当然、評価が違ってくることになる。どんな職種であれ、今の部署で高い成果を上げることが、AI化に対処するための最短距離ということになるだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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