伊豆戦争が再び? 東急VS.西武の争いはそれほど悪くない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
東急グループの伊豆急行で新たな観光列車が誕生する。かつて伊豆や下田などをめぐって、東急グループと西武グループが争っていたが、今度の戦いはちょっと様子が違う。両社の沿線の人々にとって楽しみが増えて、両社の沿線の価値を上げる効果が大きい。
ようやく伊豆とつながった東急グループ
伊豆方面の2つの観光列車は運営会社が異なる。「IZU CRAILE」はJR東日本が主体で、「THE ROYAL EXPRESS」の運営は東急電鉄と伊豆急行だ。なぜ東急電鉄が登場するの? と思われたかもしれないが、伊豆急行の親会社が東急電鉄だからである。2つの列車の走行区間はJR東日本の東海道本線と伊東線、そして伊豆急行線である。東急電鉄の路線は走らない。
「THE ROYAL EXPRESS」の運行にあたり、東急電鉄は東横線の終点、横浜駅にカフェとラウンジを設置する。普段はカフェとして営業し、「THE ROYAL EXPRESS」の運行日はラウンジを専用スペースとして乗客に提供する。旅の始まりを楽しみ、くつろぐための集合場所というわけだ。東急沿線の人々は横浜駅に集まり、JR東日本の線路を走るとはいえ、東急の観光列車で伊豆へ向かう。東急電鉄は「THE ROYAL EXPRESS」によって、念願の伊豆急行接続を果たしたとも言える。
関東大手私鉄の中で、地下鉄の東京メトロを除くと、東急電鉄だけが終点側に有名な観光地を持っていない。西武鉄道は秩父と川越、小田急電鉄は箱根、東武鉄道は日光と川越、京王電鉄は高尾山、京成電鉄は成田山、京急電鉄は三浦半島だ。沿線価値の向上を図る上で、東急も観光地を持ちたい。いや、持っているけれども、自社路線網から離れた伊豆であった。
そんな状況だったので、東急は「自社の路線内から伊豆急行へ向かいたい」と思っていたはずだ。例えば多摩田園都市のたまプラーザを起点とし、長津田からJR東日本の横浜線に入って横浜駅へ、そこから伊豆へ。乗り換えなしで沿線の人々を届けたい。調整は難航しそうだけど、長津田は東急の新造電車の搬入経路である。「THE ROYAL EXPRESS」も東急の長津田工場で改造されているようで、ネット上に目撃談や写真がアップされている。
たまプラーザ駅は将来、現在の対向ホーム2面、線路2線から、島式ホーム2面、線路4本に拡張できる構造になっている。これが完成すればもしかしたら……と期待する。さらにいうと、東急田園都市線は東京メトロ半蔵門線を介して東武鉄道と直通する。たまプラーザ発日光行きの特急だって夢ではない。
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