鉄道路線廃止問題、前向きなバス選択もアリ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
赤字ローカル線の廃止論議で聞く言葉に「バスでは地域が衰退する」「バスは不便」「鉄道の幹線に直通できない」などがある。鉄道好きとしては大いに頷きたいところだ。しかし、ふと思った。バスの運行に携わっている人々は、これらの声に心を痛めていないだろうか。
バス路線に対する誤解
「バスは不便」「バス路線は簡単に撤退してしまう」「バスでは地域が衰退する」。この意見も、いささか偏見があるように思う。いや、偏見と言うより、鉄道がなくなる。バスで大丈夫かという漠然とした不安から起きる感情だろうか。その不安を取り除くために、1つ1つ事例を挙げて説明していくしかない。
「バスは不便」か。いや、地域輸送の面では鉄道より便利な場合も多い。短距離でも停留所を目的地ごとに設置できる。病院前、学校前、駅前、住宅地の中心に停留所があれば、家の近くから目的地の近くまで行ける。高校生や高齢者にとって、マイカーのように家族に送迎を頼む必要はない。タクシーよりも安価だ。
ダイヤ改正の対応も柔軟だ。ローカル線のように、駅でのすれ違いや、折り返しの作業はない。沿岸バスでは2017年4月にダイヤ改正を実施した。一部の路線バスでJRのダイヤ改正に対応し発車時刻を調整した。宗谷本線の特急列車との接続を改善するためだ。限られた車両数で運行本数を確保し、経由地すべての鉄道やバス路線と接続を取らなくてはいけない。通学や病院の受付時間も考慮する。実は大変な作業だ。
ダイヤ改正にあたり、高速乗合バスは高速道路経由系統で1つ、高速道路を経由せず国道231号を経由する増毛経由系統で3つのバス停を新設した。増毛町の人々は、今までより近い停留所から札幌へ往復できる。また、増毛駅バス停については、旧増毛バス停に改名し、高速乗合バスも乗り入れを開始した。増毛町が旧増毛駅周辺を観光・文化の拠点としたいと考えているためだ。地域に寄り添うというバス事業者らしい発想だ。
「バス路線は簡単に撤退してしまう」は誤解だ。バス路線の柔軟性に対する高評価の裏返しといっていい。制度上は、路線バスの参入・撤退は自由であり、鉄道と比較して路線やダイヤの設定は容易だ。ただし、地方の路線バスの多くは赤字であることから、国や都道府県、沿線市町村などから補助を受けている。このため、各バス事業者とも路線の減便や廃止には、事前に自治体等と協議を行うなど、可能な限り維持につとめている。
「バスでは地域が衰退する」という声は偏見だろう。バス事業者は地域の衰退を予測して、先に路線を廃止するなんてできない。バスの乗客が減り、赤字になり、維持が難しくなった時点で、沿線自治体などと協議する。自治体や国の補助で運行を継続する場合もあるし、廃止を認め、自治体がコミュニティーバスを運行する、あるいは、乗り合いタクシーと契約する場合もある。自治体としては、バス事業者に補助金を出すか、全額負担で小さな交通手段を選択するか。コストとの兼ね合いになる。
バスが撤退して地域が衰退するのではなく、地域が衰退するからバス路線を維持できない。それは鉄道路線も同じで、設備の規模が違うだけだ。
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