集英社、講談社、小学館のデジタルマンガ戦略とは?:出版不況打破のカギ(2/3 ページ)
出版不況が続く中で、重要性が高まり成長している電子書籍市場。特に伸びが著しいのはマンガだ。集英社、講談社、小学館といった大手出版社は、デジタルマンガを売るためにどのような戦略を立てているのだろうか?
完結作品が“新しい作品”に
打った施策に反応し、リアル書店とは異なった売れ筋ができるのも電子書籍の特徴だ。LINEマンガで16年最も売れた少女マンガは小学館の「BLACK BIRD」(小学館/桜小路かのこ)。06年に連載を開始し、12年に完結している。
「2万近いタイトルを配信している中で、完結作品や日の目が当たっていない作品も含めてどうやって“掘り起こし”をするかがデジタルコミックのテーマの1つ。紙は新刊依存度が高いが、デジタルはアーカイブビジネス」(小学館デジタル事業局の飯田剛弘氏)
集英社も同様に、完結したマンガの掘り起こしに成功している。紙の書店ではほとんどランキングに入ってこないが、電子ストアでの売れ行きがよい作品が生まれている。15年に完結した少女漫画「シックスハーフ」(集英社/池谷理香子)もその1つ。
「完結作品の掘り起こしに成功した。紙の売り上げのランキングとは違うランキングが作れているのは興味深い。LINEマンガの売り上げ伸長率は、毎年驚くほどの前年比を出していて、集英社全体では前年比127%。市場全体では122%程度なので、プレゼンスが高い」(集英社デジタル事業部の鈴木基氏)
リアル書店の売り上げ比率は、およそ30%以上が新刊で占められている。しかし電子書籍ストアでは、既刊の強さが特徴的だ。例えばLINEマンガでは、新刊12%/既刊88%となっているという。
完結作品や過去の作品が、キャンペーンや「1巻無料」、1日や1週間ごとに1話ずつ無料で配信する「無料連載」などの取り組みを通じて、スマホの読者にとって初めて出会う「新しい作品」と見られ、売り上げにつながっているのだ。「新刊をフックにして既刊に気づいてもらい、市場を伸ばしたい」(講談社の吉村氏)という思いはどの出版社も同じだ。
その一方で、リアル書店と電子ストアでの“連携”施策の例もある。
「押し出したい作品があった。そこで、リアル書店でのポップと同じようなイメージでバナーを作成し、電子ストアで展開した。ユーザーに『リアル書店でもスマホでも、なんだかこの作品をよく見るな』と認知してもらうことに成功し、電子の売り上げアップのみならず、紙も1巻2巻ともに重版――という結果に。こうした実績を少しずつ積み重ねて、大きな流れにしていきたい」(集英社の鈴木氏)
関連記事
- なぜ電子出版は軽視されるのか
不調が続く出版業界の中で、唯一成長している電子出版市場。出版社が電子に注力する価値はありそうに見えるが、実際は業界内の電子への期待はまだまだ薄い。「売れない紙を大事にして、売れ始めている電子を軽視する」のはどうしてなのだろうか。 - マンガアプリ利用者数、首位は「LINEマンガ」
ニールセンデジタルがマンガアプリの利用状況を発表。2017年2月時点の月間利用者数1位は「LINEマンガ」の279万人だった。月間利用回数と1回あたりの利用時間もトップに。 - 「一迅社の力を借りてオタクマーケットに参入したい」 講談社が一迅社子会社化 両社トップが語るその狙い
講談社が一迅社の全株式を取得し、完全子会社化することで合意した。両者トップが語る、子会社化の経緯と狙いとは? - “出版不況の中でも売れる本”を生み出す「ウェブ小説」の仕組みとは?
出版不況の中でも、毎年ベストセラーは生まれている。映画化もされた川村元気『世界から猫が消えたなら』は累計100万部、又吉直樹の次に売れている新人作家・住野よるの『君の膵臓をたべたい』は累計55万部を突破した。「出版不況でも売れる本」に隠された「ウェブ小説」の秘密とは? - 講談社、マイ電子書店スマホで開設「じぶん書店」4月開始
講談社は、自分の電子書店をスマートフォンで簡単に開ける新プラットフォーム「じぶん書店」を4月からサービス開始。電子書籍約3万2000点の中から好きにタイトルを選び、自分の書店のように売り出せる。運営は電子出版取り次ぎメディアドゥと共同。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.