提訴がダメなら「くら寿司」はどうすればよかったか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
ネット掲示板に「何が無添なのか書かれていない」などと書き込みをした人物の個人情報開示をめぐる訴訟に敗れた「くらコーポレション」に対して、厳しい言葉が投げかけられている。では、どうすればよかったのか。
消費者に伝えようという「真摯な姿勢」
英国で「悪質な肉」訴訟が騒ぎになったころ、日本のマクドナルドでは「ハンバーガーの歴史や製造過程をわかりやすく紹介したビデオを全国八六店舗で無料貸し出し」(日本経済新聞 1994年9月16日)なんてことに力を入れる。それ以前から「ストアツアー」という各店舗の厨房見学会などを実施していたが、そこからさらに「先」である牛肉の生産地や工場の様子を消費者に見せることで、「食の安心・安全」を訴求しようという動きが始まったのである。
このような情報開示の姿勢は年を追うごとに強くなり、近年は「小学3〜6年生の親子45組90人を対象に、ハンバーガーができるまでの工程を見学できるツアーを開催」(食品新聞 2010年8月4日)するなど「消費者に見学してもらう」ということが多くなる。
異物混入で失った信頼を回復しようとした時もその大方針は変わらず、一般応募したママさんたちが消費者の代表として、店内のキッチンや国内外の農場・工場をチェックするという「ママズ・アイ・プロジェクト」を打ち出している。
もちろん、「消費者に見学してもらう」だけではなく、Webサイトでも積極的に情報発信をしている。例えば、マクドナルドには食材や、その味に関してネットではさまざまな「噂」が流布されているが、「マクドナルドまるごとQ&A」というコーナーで、以下のような「噂」にもひとつひとつ対応しているのだ。
「ミミズ肉が使われているって本当ですか?」
「ハンバーガーは長い間放置をしても腐らないと聞きました。本当ですか?」
「コカ・コーラの中身が、実はペプシコーラっていう噂は本当?」
それだけではなく、「商品の実物と見本の写真が大分異なる場合がありますが、良いと思ってらっしゃるんでしょうか」というネットユーザーが盛り上がった「ネタ」に関しても真面目に対応している。
もちろん、「バンズの小麦に使われている農薬は、安全な量なの?」「人口甘味料を使用しているメニューはありますか?」という食の安全も細かく答えている。
そう聞いても、「いや、だまされないぞ。マックなんて体に悪いに決まっている」というアンチな方もいるかもしれないが、筆者のようにマックに対して特別な思い入れもない普通の消費者からすれば、世の中からいろいろ言われていることに対して、しっかりと向き合っている企業なんだなと思う。
もしかしたらいろいろな問題点もあるのかもしれないが、そこに対してしっかりと取り組んで、それをどうにかして消費者に伝えようという「真摯な姿勢」は感じられる。
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