なぜセブンは海外のコンビニを買うのか:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
セブン-イレブンがこれまで聖域としてきたFC加盟店のロイヤリティ引き下げに踏み切った。同じタイミングで過去最大規模となる海外のコンビニのM&A(合併・買収)実施についても明らかにしている。飽和市場で苦しくなると言われながらも、何とか成長を維持してきたコンビニ業界だが、一連の決定は成長神話もいよいよ限界に達しつつあることを如実に表している。
最終的には海外事業に依存か
その証拠にコンビニ業界では上位3社の寡占化が進んでいる。トップのセブンは約1万9000店舗、2位のファミリーマート(サークルKサンクスを含む)は約1万8000店舗、3位のローソンは約1万2000店舗を展開しているが、上位3社が市場に占める割合は年々上昇している。
これ以上の規模拡大は難しく、場合によっては他社とのシェアの奪い合いが激化する可能性がある。加盟店の乗り換え(他社への乗り換え)は本部としては絶対に避けたい状況であり、そのためには加盟店の利益を厚くする必要がある。
だがそれだけでは持続的な成長シナリオを描くことは難しい。セブン-イレブン・ジャパンの持株会社であるセブン&アイ・ホールディングスは4月6日、米国の中堅コンビニであるスノコLPからコンビニとガソリン・スタンド約1100店舗を取得すると発表した。買収額は33億ドル(約3650億円)で、同社のM&A(合併・買収)としては過去最大規模となる。
米国は今後、長期間にわたって人口の増加が予想されており、小売市場も堅調な伸びが期待されている。米国のコンビニを買収することで国内市場を補いたい意向だ。
セブンはもともと米国のコンビニだが、日本にコンビニを導入する目的でイトーヨーカ堂(セブン&アイ・ホールディングスの前身)がライセンス契約を結んだ。その意味で、同社は米国市場と深い縁があるが、あくまで事業展開は国内が中心であった。
海外事業の拡大を目的に大規模M&Aを実施するのは、今回が初めてであり、こうした動きも国内市場の頭打ちが深刻であることを物語っている。これまで同社の業績は国内のコンビニ事業に大きく依存してきたが、今後は海外市場での展開が決算のポイントとなってくるかもしれない。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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