岩谷のカセットコンロが今も売れ続ける理由:ロングセラー商品(1/4 ページ)
今では当たり前のように家庭で使われているカセットコンロを、業界で初めて発売したのが岩谷産業だ。もう半世紀近く前に誕生した商品だが、いまだに年間約70万台売れているという。そのワケとは……。
ロングセラー特集:
生まれては消えて、消えては生まれる――。スーパーやコンビニの棚を見ていると、慌ただしく商品が入れ替わっている中で、何十年も消費者から愛され続けているモノがある。その歴史を振り返ると、共通していることがあった。それは「業界初」というリスクを抱えながらも、世に商品を送り出したことだ。何もないところから、どのようにして市場をつくってきたのか。また、競合商品が登場する中で、なぜ生き残ることができたのか。その秘密に迫る。
いきなり季節外れの話題で恐縮だが、読者の皆さんは鍋料理がお好きだろうか。最近は豆乳鍋やトマト鍋、カレー鍋など、毎年のように新しいトレンドが生まれては、食卓を大いに賑(にぎ)わしている。
では、皆さんは自宅で鍋料理を食べるときに何を使って具材を温めているだろうか。恐らく多くの人が「カセットコンロ」と答えるはずだ。
今でこそ当たり前のように使われている便利なカセットコンロだが、以前は家で鍋を食べるにも一苦労だった。戦後しばらくは一般家庭にガスはほとんど普及しておらず、火を起こすのは薪と炭を使うのが基本だった。そのため、鍋料理を食べるときは台所で調理し、材料を煮込んで完成させてから食卓へ運んでいた。
その後、家庭にもガスが広がると、食卓にコンロを設置してガスの元栓からホースをつなぎ、コンロの上に鍋を置いて食べるようになった。コンロが内蔵されたテーブルも多くの家庭で使われていたようだ。ただし、ホースの長さが限られていて不便だったり、ホースが邪魔になって足などを引っ掛けてしまう危険性があり、安全面でいろいろと問題があった。
そうした家庭の食卓の風景を一変させたのが、岩谷産業の卓上ガスコンロ「カセットフー」だ。上述したような課題を感じていた同社創業者の岩谷直治社長が発案、1969年に製品化にこぎつけた。ちなみに、岩谷氏は戦後、日本の家庭向けにLPガス(プロパンガス)を初めて販売した人物でもある。
岩谷産業のカセットコンロは、その後、競合が相次いで市場参入してくるも常に先頭を走り続けた。現在、カセットコンロ関連市場は年間約240万台の販売規模で、そのうち65%のシェアを岩谷産業が占めている。さらにカセットフーだけでも約70万台売れているのだ。
なぜ今なお岩谷産業の商品は売れ続けているのだろうか。そこには単なる先行者利益にとどまらない、消費者の“かゆいところに手が届く”ような、きめ細やかなモノづくりの軌跡があるのだ。
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