企業のデジタル変革、障壁は「既存ビジネス」:有識者に聞く(3/4 ページ)
ゼネラル・エレクトリックが好例のように「デジタルトランスフォーメーション(DX)」によって新しいビジネスモデルを創造しようとする企業が増え始めている。ITmedia ビジネスオンラインでは、DXに関する有識者や専門家たちの意見をシリーズでお伝えしていく。
一発勝負はやめるべき
――さまざまな課題があるにせよ、今後の企業成長を考える上でデジタルビジネスは無視できないということですが、経営者やビジネス部門は何に取り組むべきでしょうか?
今から10年ほど前までは、CEOはCIOやIT部門の話を聞いてくれないといった声がよくありました。ただデジタルビジネスはまさにビジネスそのものなので、経営者は自分ごととして考えるべきでしょう。実際、IT部門に丸投げと思っている経営者は少なくて、自分たちあるいはビジネス部門が中心で動こうとしています。
推進する中で課題になるのが、先ほどお話した既存のビジネスで、それは社内組織にも関係してきます。特に大企業であれば、ビジネスを最適化するために組織がカチッとでき上がっているわけですから、それを壊して新しいビジネスを作るのは難しいでしょう。
もう1つは外部の企業などとタッグを組むことです。これは日本企業が弱い部分です。昨今、「オープンイノベーション」がしきりに叫ばれていますが、これはまさに現状はほとんどできていないことの裏返しです。
足りないものは自分たちで作ってしまおう、内製化してしまおうというのが日本企業の強さだったりするわけですが、新しいビジネスやサービスを作るのに、自社が持っている現状のリソースだけですべてを何とかしようとするのは困難な気がします。さまざまな企業と組みながら、サービスに厚みを持たせていくのが今後は重要になると見ています。
そうした中で、トヨタ自動車は「TOYOTA NEXT」というプロジェクトを立ち上げ、さまざまな企業とのオープンイノベーションを推し進めています。トヨタほどの巨大企業が自社内ではやらないと割り切った意味は大きいです。
あとは人事評価の再考も必要です。既存ビジネスを担当する社員と、新規事業を立ち上げる社員をどう評価するのかということです。少なくとも新しいビジネスを考えている社員を従前の方法で評価するのは難しいでしょう。
スモールスタートも重要です。特に日本の企業は、新規事業の成果は“大ホームラン”を前提にしています。その代わりに何年もかけて準備するけれども、結局は失敗するというケースが多いです。そういったマネジメントするべきではなくて、さいころを山ほど振るような進め方が正解だと思います。なぜかと言うと、既に申し上げたようにデジタルビジネスはあまりお金がかからないからです。仮に1億円投資するのであれば、一発勝負ではなく、500万円かけて20個の新規事業を作るほうがいいです。
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