ガソリンエンジンの燃費改善が進んだ経済的事情:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
ここ10年、自動車の燃費は驚異的に改善されつつあり、今やハイブリッドならずとも、実燃費でリッター20キロ走るクルマは珍しくない。なぜそんなに燃費が向上したのだろうか? 今回は経済的な観点から考えたい。
真に受けた排ガス規制
80年代、既に電子制御燃料噴射装置と三元触媒による排ガス浄化システムを完成させ、公害面での排ガス対策に一定の解決策を見出していた日本の自動車メーカーは、次にパワーと燃費競争にまい進する。
米国のマスキー議員が提唱した公害対策法、通称「マスキー法」は米国ではビッグ3のロビー活動によってなし崩しに延期されたが、米国進出を生命線とする日本は、マスキー法を真に受け、昭和51年規制(76年)と昭和53年規制(78年)で極めて厳しい排ガス規制を実施して、致命的なパワーダウンを余儀なくされた。これをようやく脱してパワフルを売りにするクルマが登場するのは80年の日産レパード、81年のトヨタ・ソアラあたりのことである。
排ガス規制前、排ガス性能と、燃費性能、出力性能は相反するものと考えられていたが、このころになると、どれも理想燃焼を目指すという意味では同じだという見方が強くなり、その結果、他国のクルマと比べてどの性能でも優れているという奇跡的状況が起きる。こうして日本車はハイテクカーというイメージが世界に広まっていく。
エンジン技術において次にトレンドになったのは希薄燃焼(リーンバーン)だ。燃料を絞り、より薄い混合器を燃焼させれば燃費が良くなるはずである。パワーが必要なときにはリーンバーンでは困るが、幸いなことに電子制御インジェクションで、状況によって混合器の濃度を変えるのは難しくない。
ところが、このリーンバーンは結局うまくいかなかった。希薄にすれば燃料の燃え残りは防げるはずだったのだが、そうは問屋が卸さなかった。薄すぎて燃えない部分で燃え残りが発生すると、カーボンが燃焼室に付着してエンジン不調を招いてしまう。
各メーカーは燃焼室に高速気流を吹き込むなどの知恵を絞ったが、結局ものにすることはできなかった。しかしこの失敗作「リーンバーンエンジン」のために採用された直噴インジェクターが、後に大きな役割を果たすのである。
次回は、現在の低燃費技術に至るブレークスルーについて詳細に書き進める予定だ。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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