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欧州で加速するEVシフト トヨタへの影響は?“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)

スウェーデンの自動車メーカー、ボルボが内燃機関のみで走行する自動車の生産を段階的に廃止する計画を明らかにした。ほぼ同じタイミングで仏国のマクロン政権が2040年までに、内燃機関を搭載した自動車の販売を禁止する方針を表明している。欧州を震源地にEVへのシフトが一気に進む可能性が出てきた。

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トヨタの強みは弱点に?

 欧州における一連の動きは、日本の自動車メーカーにも極めて大きな影響をもたらすことになる。トヨタ自動車(トヨタ)と日産はこの点に関して正反対の方向を向いており、場合によってはトヨタが不利な状況に置かれる可能性も否定できなくなってきた。

 トヨタは日本を代表する企業であり、国策として政府が推進する水素事業にある程度コミットしなければならない。また、グループ内に有力な部品メーカーを抱え、株式を持ち合うなど相互補完関係を構築している。一方、日産は傘下の自動車部品メーカーであるカルソニックカンセイをファンドに売却するなど、全社をあげて経営のスリム化とEVシフトを進めている。

 自動車メーカーにとって、高い技術を持つ部品メーカーは、経営資源そのものであり、自らのグループに囲い込むのが常識であった。だがEVの製造に高度な技術は必要とされないことから、EVが主流になれば自動車そのものがコモディティ化していくのは確実と言われている。そうなってしまうと、完成車メーカーと部品メーカーで構築してきたバリューチェーンが一気に崩壊する可能性が出てくるのだ。日産がこのタイミングで部品メーカーの売却を決定したのは、EVシフトを戦略的に選択したからに他ならない。

 トヨタはグループ内に、アイシン精機、曙ブレーキ工業、デンソーなど技術力の高い部品メーカーを多数抱えている。デンソーのように独立性の高い企業もあるが、基本的にトヨタは、部品から最終製品までを自社グループ内で製造する、いわゆる垂直統合モデルの色彩が濃い。これに対して日産は、EV化時代を見据え、完成車の製造に特化する水平統合モデルにかじを切ろうとしている。

 全てを自前でカバーするグループ戦略がトヨタの競争力の源泉だったが、もしEVシフトが一気に進んでしまうと、トヨタの強みは逆に弱点に変わってしまう。トヨタに残された時間的猶予は少ない。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「感じる経済学」「新富裕層の研究−日本経済を変えるあらたな仕組み」「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」などがある。


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