電通の働き方改革はうまくいくのか:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
電通は2017年7月、労働環境改善の基本計画を公表した。19年度までに全体の労働時間を2割削減するというものだが、果たしてうまく機能するのだろうか。
広告ビジネスのAI化を受け入れられるか
筆者は、業務の見直しや自動化、IT化などと書いたが、電通の計画書には「ワークダイエット」「スマートワークスタイル」といった美辞麗句が並んでおり、具体性の面で少々気に掛かる部分があることは否定できない。ただ、全体で2割削減という数値目標を掲げたこと自体は素直に評価して良いだろう。
もし本当にアウトプットを減らさずに労働時間だけを2割削減することができれば、同社の生産性はかなり向上する。ちなみに日本全体の労働生産性は、ドイツや仏国、米国といった先進各国と比較すると25〜35%も低い。電通の働き方改革が成功したと仮定し、これを他の日本企業にも応用すれば、日本の労働生産性は欧米などの水準に1歩、近づくことになる。
ただ先ほども説明したように、日本の広告業界には利害の調整というムラ社会的な慣行が多く残っている。こうした慣行を残したまま業務の自動化やIT化を進めてもうまくいかない可能性が高い。
また広告業界はAI(人工知能)との親和性がもっとも高い業種ともいえる。ネット上における最適な広告出稿プランの作成や、状況に合わせた能動的なオペレーションは理論上、AIで完全代替化が可能だ。
だが、広告ビジネスのAI化(自動化)を極端に進めてしまうと、極めて高いシェアを持つ電通の存在意義そのものが問われるという皮肉な結果にもなりかねない。この部分を受け入れた上で大胆な決断ができるのかがカギであり、まさにこれは経営の問題ということになる。今回の働き方改革が成功するかどうかは、電通経営陣の経営者としての「覚悟」に大きく依存することになりそうだ。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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