日本の小型ロケットは世界のライバルに勝てるか?:宇宙ビジネスの新潮流(3/3 ページ)
7月30日にインターステラテクノロジズが観測ロケット「MOMO」初号機の実証実験を実施、8月9日にはキヤノン電子が筆頭株主となり、ロケットの開発企画を行う新会社が設立と、日本の小型ロケット開発が盛り上がっている。
元SpaceX副社長が小型ロケットを開発
米Vector Space Systemsという企業にも注目が集まる。16年3月にできたばかりの同社の従業員は約20人だ。元SpaceX副社長がCEOを務めており、創業1年半程度にも関わらず、これまでに米Sequoia Capitalなどから約3000万ドルを調達、小型ロケット「ベクターR」「ベクターH」を開発中だ。同社では1回の打上げ費用を300万ドルに抑えることを目標にしているという。
16年12月にエンジンテストを行い、17年に入ってからは実物大試験機での打ち上げを行っているが、その到達高度はいずれも3000メートル以内だ。18年または19年の実用化を目指しているとのことだが、軌道投入含む本格的なテストはこれからであり、スケジュール通りに進むかは不透明だ。
技術開発とともに顧客開拓競争が加速
他方で、有力企業は技術開発とともに顧客開拓も既に進めている。Rocket LabはPlanetや米Spireとの間に複数回の打ち上げ契約を発表済みだ。またVector Space SystemsはSAR(合成開口レーダー)のコンステレーション構築を目指すフィンランドのベンチャー企業ICEYEの衛星打ち上げを受注している。
リチャード・ブランソン氏が率いる、小型衛星打ち上げための独自システムを開発中の米Virgin Orbitも先述のOneWebや衛星コンステレーション構築を目指す英Sky and Space Globalから既に複数回の打ち上げ契約を受注している。いずれの企業も技術開発の途中にも関わらず顧客との契約を進めているのが特徴的だ。
加速する小型ロケット開発と顧客開拓。日本の取り組みが世界をリードしていくことを期待したい。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク業界、自動車業界、宇宙業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙民生利用部会および宇宙産業振興小委員会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。
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