データを持つ企業が「融資サービス」を加速させる:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
あらゆるデータを所有するIT事業者などが独自の融資サービスを展開する動きが加速している。近い将来、豊富なデータを持つ企業が、金融機関の与信判断の枠組みを超えるシステムを作り上げるかもしれない。
IT企業が融資サービスの在り方を変える?
CAMPFIREが検討している個人向け融資も従来の融資とは考え方が異なっている。同社ではクラウドファンディングの仕組みを通じて、その企業や人が、社会からどれだけ支援されているのか数値化し、これを与信に応用する方針だという。支援者が多く、クラウドファンディングに成功している企業や人は、プロジェクトを継続して運営できる可能性が高いと判断する仕組みだ。
ネット上で賛同者が多いことが必ずしも最適な与信につながるとは限らないが、多くのデータが蓄積してくれば、有用な与信情報になる可能性は十分にある。例えば、アフリカなど途上国において融資を行う、いわゆるマイクロファイナンスの世界では、既存の与信情報がないため、スマホの動作履歴などを与信情報に活用しているという。
ネット上での履歴はある意味で宝の山であり、やり方によっては既存の金融機関が持つ与信判断の枠組みをはるかに超えるシステムを作り上げることも不可能ではない。
CAMPFIREが取り組もうとしている手法であれば、一度失敗した人や、先端的なことにチャレンジしている人など、従来の枠組みではなかなかお金を借りることができなかった人でも融資を受けられる可能性が見えてくる。
こうした枠組みは、ネット上でビジネスを展開する全ての事業者にとってチャンスとなるだろう。近い将来、こうした融資ビジネスを提供する共通プラットフォームのようなサービスが出てくるかもしれない。より細かい資金ニーズに対応することで、中小零細企業のビジネスの幅も広がってくる。
短期的な資金を融通する機能の多くは、あらゆるデータを所有するIT事業者などに取って代わられる可能性が高いだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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