衛星AISで全世界の船をリアルタイムで追跡せよ:宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)
船舶の衝突事故が相次いでいる。他方で船の安全管理や航行管理のために衛星インフラの活用が着々と進んでいるのをご存じだろうか?
密漁対策や海難救助から先物取引まで
こうした船舶の追跡情報を必要とする顧客は多岐にわたる。例えばexactEarthでは売り上げの75%は政府系機関であるが、その政府系機関では安全保障、航行管理、環境保全、密漁対策、海難救助などに船舶追跡情報を活用するニーズがある。
また、民間企業では海運オペレーターによる航行管理はもちろんのこと、オイル・ガス企業は海洋油田設備管理のための周辺海域の監視、あるいは探鉱・開発・生産・精製に関わる船のモニタリングなどに活用している。さらにはエネルギー、貴金属、穀物などの先物取引をする金融機関などにとっても有益な情報なのだ。そのため、多数の企業が存在する。
衛星通信企業の米Orbcommは同様に衛星AISサービスを提供、フランスの政府系宇宙機関の関連団体である仏CLSは衛星AISに加えて、他データを組み合わせた密漁監視や海上の環境モニタリングサービスを提供している。また衛星ベンチャー米Spireは小型衛星コンステレーションを構築し、AIS信号を受信して船追跡サービスを提供している。さらに同社は、今後航空機の追跡サービスにも参入することを表明している。
海は空とともに、地上センサーとの競合がなく衛星が活躍する分野だ。こうした分野での宇宙技術に引き続き着目していきたい。
最後に少し宣伝をさせていただきたい。8月31日に筆者の初の単著「宇宙ビジネス入門 NewSpace革命の全貌」(日経BP)を上梓させていただいた。本連載でも3年近くにわたり宇宙ビジネスの潮流をお伝えしてきているが、本書は宇宙ビジネスイノベーションの全体像から、今話題の宇宙ビジネス関連企業・事業の個別トピックまでを体系的に紹介しており、宇宙ビジネスに興味のあるすべての方を対象としている。ぜひご一読いただければ幸いに思う。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク業界、自動車業界、宇宙業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙民生利用部会および宇宙産業振興小委員会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。
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